人の気を引く腕時計
TBSドラマ「相棒」で水谷豊さんが着けている腕時計が注目されました。沈黙の場面では、眼鏡、帽子といった小道具が物語を進行させますが、中でも強い力を発するのが腕時計です。それが映ると物語が動き始めたり、場が静まったり、役柄を表現することにも長けています。
何種類か着けられている中で私が気になったのは、1900年代初頭に人気のあった、アールデコ風のトノーウォッチを再現したハミルトン社のボルトン時計です。角型で丸みのあるクラシカルな雰囲気が、人の良い役柄と良く合い、水谷さんと時計は共に気になる存在になりました。時計はその人の持っている雰囲気を良いほうに上げるものでなければなりません。
なぜ男性は腕時計が好きなのか
「時計の始まりは、ローマやギリシャで太陽や月の動き、星の位置を地上に降ろして計算し、写し取ろうとして始まったのではないか?」
この説を話してくれたのは映画監督の伊丹十三さんで、まだ伊丹一三という名でデザイナーの仕事をしていたころでした。
「太陽と月、星を捕まえ、我が腕に」
これぞ男のロマンです。
俳優の津川雅彦さんや緒形拳さんは、役作りのために腕時計を求め、初めはヨーロッパへ、あるときから中欧のプラハやハンガリーのブダペストに行くようになりました。そこにはアンティークの時計、それも個性の強いものから美しい飾りのものまで人間臭さを感じられる物が揃っていたのです。同じシリーズの腕時計でも、金色か銀色か、飾りが多いかなどで雰囲気が異なります。
特にアンティーク時計には以前の持ち主が育てた良い感じの傷みや、様になった年代の汚れが物語として加わっています。男性は、それらをわくわくしながら自分の手首に迎え入れ、新しい物語を加えることを楽しみたいのです。
森英恵さんからのアドバイス
一方、女性は、まずデザインが素敵かどうかに気持ちが動くようです。
教養番組で使うVTRを確認していたデザイナーの森英恵さんが、台に乗せられた森さんデザインの腕時計を見て待った」をかけられました。まだ試作品だったとはいえ、デザインも飾りも申し分のない時計です。
「何がいけないかと言うと、デザイン過多で、着ける前の段階で素敵が完成してしまっているのです」
腕時計は着けてみて初めて似合う、似合わないが分かります。
その人の雰囲気や持ち味に合っているかどうかが大切で、時計だけ素敵でも、バランスが取れていないと借りもののように映ります。他につけるアクセサリーとのバランスも大切です。
「少しシンプルかなと思うぐらいが着けたときにちょうど良いのです」
と、森さんはおっしゃっていました。
ダイアナ妃の時計
ところで、腕時計というと思い出されるのが故ダイアナ妃です。
フィリップ殿下との婚約中、ポロの試合を応援している姿が写真に収められたのですが、注目されたのは彼女の腕に並んだ2本の腕時計でした。どちらもパテック・フィリップのもので、ひとつは殿下のもの、もうひとつは殿下から彼女に贈られたものです。寄り添う時計から彼女の殿下への思いが伝わってきました。
そして離婚を経た後、ダイアナ妃が好んだ腕時計のひとつにカルティエ・タンクがあります。ジャクリーン・ケネディやアンディ・ウォーホルも愛用し、スクエア型の文字盤が着けた人の持ち味を発揮してくれるデザインです。戦車という意味を持つ〝タンク〞を革のベルトで腕に巻くダイアナ妃からは芯の強さが感じられました。腕時計から、その時々のその人の物語が伝わってきます。6月10日は時の記念日です。どうぞ素敵な時を。

腕時計は あなたを語ります© K’s color atelier
今月のレッスン
腕時計を巻いて出かけてみましょう。
(「Are You Happy?」2023年6月号)












