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“ちょっと”のこと-岡野宏のビューティーレッスン

40年にわたりNHK美粧部に在籍し、国内外の女優や政治家などのメークアップに携わってきた岡野宏さんが考える「魅力ある人」とは? さあ、一緒に美しさへの一歩を踏み出しましょう。
 

“ちょっと”の差

新人女優が人前で長い髪の毛先をつまみ、指の先に巻きつけいじくっています。本人にとっては何気ない行動なのでしょうが、見苦しいので注意をすると、
「そんな、ちょっとしたことで!?」と言い返されました。

彼女は、その“ちょっと”の差の大切さに気がついていないのです。

 

わずかなことに振り回されてみる

女優の池内淳子さんの着物姿は女優たちの憧れです。
その池内さんが、ドラマの衣装合わせで悩まれていました。着物の表地の色はすんなり決まりましたが、裏である裾回しの色が決まりません。長いこと黙ったまま宙に目を向けていらっしゃいました。

「この次まで、考えさせてくださらない? そのとき、長襦袢の半襟も決めるわね」
その後、お会いしたときに、何を悩まれていたのか尋ねてみました。
「私に直接良し悪しを言ってくれる人たちは、裾回しや長襦袢の半襟にうるさいのよ。変な色合わせをしていたら、そっぽを向かれてしまうわ」
池内さんは、困ったような、でも楽しそうな顔をされました。

「こんな少しきり見えないところに、いつも振り回されているのよ」
見られる怖さと満足感の間を、常に行き来きしているそうです。

 

少しのことにこだわる

石坂浩二さんが館長をしている伊豆の絵本館にテレビ中継が入ることになり、演出家が彼にスーツの着用を申し出ました。

「堅苦しくなりませんか? ここではいつもセーター姿で皆さんをお迎えしているのですがね」

政府の要人が来館するということで、石坂さんはチエック柄のシャツの上にコットンジャケットを羽織り、内側に紺色のセーターを重ね、鏡をのぞきました。

「襟元が重いね。シャツを着替えるよ」
「いや、時間がないんです。襟元は少ししか見えませんから」

石坂さんはその言葉を無視して、白いシャツに着替えられました。

「ここは譲れないでしょ」

フランス元大統領のシラクさんは、スーツの袖から見える白いYシャツの幅を1.5センチと言って譲りませんでした。

「ふつうは1センチぐらいでしょうが、私は体が大きいのでこの幅でなければ」

この0.5センチの差が絶妙で、清潔感が際立っていたのです。
少しの差にこだわるのは、その場に与える印象の差が大きいからにほかなりません。「あの人素敵」と言われるような人は、身の回りのちょっとしたことを迷い、悩み、大切にしています。それが積み重なって、その人なりの完成度に近づくと「素敵な人」と言われるようになるのでしょう。

 

“ちょっと”は強く心に残る

シラク元大統領は、縞(しま)柄のネクタイがお好きで、お付きの方が何種類もの縞柄ネクタイを持ち歩き、場面ごとに締め替えられていらっしゃいました。

「能楽堂に出かけるときは、細い縞。これならシックで、相手の方も落ち着くでしょ」

強く相手に迫りたいときは、太幅の縞にするそうです。

そのシラクさんの胸ポケットから、絞り染めのチーフがのぞいていました。日本人の繊細な心と指先がなければできない絞りのチーフが、ちらりとポケットから見えたとき、多くの日本人が心を掴まれたのではないでしょうか。

岡野先生

© K’s color atelier

「雨の日に ちょっと気になることを思い返してみましょう」

 

今月のレッスン
人に会う前、髪にひと櫛入れましょう。
それだけで、美容室へ行った以上の効果があります。

 
(「Are You Happy?」2018年6月号)

 


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