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メガネを選ぶ-岡野宏のビューティーレッスン

40年にわたりNHK美粧部に在籍し、国内外の女優や政治家などのメークアップに携わってきた岡野宏さんが考える「魅力ある人」とは? さあ、一緒に美しさへの一歩を踏み出しましょう。

 

メガネはその人の顔になる

版画家の棟方志功さんといえば、版木に吸い付くように目を寄せ彫る姿が印象的で、黒縁のまん丸なメガネが彼のトレードマークです。その棟方さんがフーッと息を吐きながらメガネを顔から外しました。(ええっ?)確かに棟方さんですが、彼の顔とは思えなかったのです。

メガネは、長い時間掛けていると鼻や口に溶け込み、顔の一部分となり、やがてはその人を表す顔そのものになります。実用重視で選ばれてきたメガネですが、手ごろな値段で、デザインも多岐にわたるようになると、選ぶのが楽しくもあり難しくもなりました。

 

メガネで今を生きる

少し前まで、メガネは顔形に合わせてフレームの大小、幅の広さ狭さ等を当てはめる選び方がほとんどでしたが、現在は顔とメガネのバランスばかり気にしているとつまらない時代です。笑福亭鶴瓶さんのように大きな丸顔に、小ぶりのメガネは顔が大きく見え、バランスからすると、外れているかもしれません。しかし、彼の親しみやすい雰囲気がよく出ているではありませんか。

経済評論家の伊藤洋一さんや澤田哲生東工大助教授が、テレビや雑誌に赤いフレームを掛けて登場されると、今という時代を感じます。学者だからということにとらわれず、自分の見せ方をはっきり出し、好みのメガネを掛けるほうが、今を生きていることが伝わってきます。

 

顔と心どちらに合わせる?

私が俳優と一緒にメガネを選ぶときは、「好き」を基準にしています。気に入ったものでないと、メガネが本人に溶け込まないからです。ある女優とメガネを選びに行きました。

「これが今、流行りのフレームです」
「素敵ね。これ、いいんじゃない。どこのブランドのもの?」
聞いたことのないメーカーのものでした。
「そーね、別のものにしようかしら」

似合うかどうかより、プライドを満足させることが大事な人もいます。似合うというのは、顔とのバランスがよいもの、好きというのは心と結びついたものです。顔の形
に合わせることも大事ですが、心で納得しないまま選んでしまえば、やがて掛けなくなるでしょう。

 

メガネに合わせる

軽井沢の取材でお会いしたジョン・レノンは、彫り深い顔の中心を鼻筋がすっと通り、そこに乗った丸メガネがとても洒落ていました。丸メガネはキリッとした西洋
風の顔立ちだから似合うものと思っていましたが、日本人の洒落人が掛けるのを見て、それなりに似合う雰囲気を出せることが分かりました。

通常、着る物の雰囲気にメガネを合わせますが、好きなメガネを見つけると、フレームに寄せて選ぶようになり、それもまた楽しみのひとつです。

 

女優のメガネ使い

美人女優は公の場でメガネ姿を見せることはまずありませんが、舞台裏ではさまざまなメガネの使い方をしています。目の下の隈と同じカーブに沿わせたフレームは顔の疲れを、メガネの横に光る1点のポイントは小じわを隠すことができます。淡いピンクやグレーに色づいたグラスは、シャドーやチークを入れたような効果があり、ノーメークのときでも顔が華やかになるため、女優に愛用者が多いメガネです。ただし、飾りの多いメガネは中年を表すサインだということを覚えておきましょう。

先日、岩下志麻さんが葡萄(ぶどう)の房のようにダイヤが連なったグレーグラスのメガネをかけて、テレビ出演されていました。その存在感に圧倒され、似合うかどうかなど、どうでもよくなりました。美しさにこだわった生き方で得た自信が、メガネ姿にあふれていたのです。

メガネを選ぶときは、心に合うかどうか、自身に問うてみてください。あなたらしい1本を見つけてみませんか?

メガネを選ぶ本文

© K’s color atelier

「他人任せにしたくなっても、自分の気持ちは大切に」

 

今月のレッスン
メガネをかけて鏡に向かい、横顔や全身を映し、身体を動かしたり声を出したりしてみましょう。

 
(「Are You Happy?」2018年5月号)

 


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岡野宏 

1940年、東京都生まれ。テレビ白黒時代よりNHKアート美粧部に在籍。40年以上にわたり、国内外の俳優だけでなく歴代総理、経営者、文化人まで、延べ10万人のメークやイメージづくりを行う。“「顔」はその人を表す名刺であり、また顔とは頭からつま先までである”という考えのもとに行うイメージづくりには定評がある。NHK大河ドラマ、紅白歌合戦等のチーフディレクターを務め、2000年にNHK退所後は、キャスターや政治家、企業向けにイメージアップの研修や講演活動などを国内外で行っている。著書に『一流の顔』(幻冬舎)、『渡る世間は顔しだい』(幻冬舎)、『トップ1%のプロフェッショナルが実践する「見た目」の流儀』(ダイヤモンド社)、『心をつかむ顔力』(PHP研究所)等。

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