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子供のペースと大人のペース、どこで折り合う?

幾何学模様の最小単位???

その日、なぜか私は息子と一緒に、イギリスの大学の幾何学の講義をテレビで見ていました。数学が超苦手だった私にもわかるユニークな番組で、「へー」「数学も面白いねー」と言いながら見ていると、突然息子が「あっ、これだ!」と言ったのです。

「ぼく、小っちゃいころ、よく壁とか床を見てたでしょ? あれね、幾何学模様の最小単位と展開のパターンを探してたんだ。それがすっごく面白くて、よく夢中になってた。覚えてる?」

私は一瞬の絶句のあと、
(マジかー!)
と心の中で叫びました。ええ、よーく覚えていますとも。

キミは小さいころ、よく駅の構内やスーパー、病院の待合室など、いたるところでしゃがみこんでは、壁や床をじーっと見ていたね。公園まで5分の距離を30分かけて歩いたね。「そろそろ行こうか?」と促しても、「もうちょっと」とよく言ったね。そのたびに、お母さんは心の中で、自分のイライラと闘っていたんだよ。「急ぐんだから、さっさとしなさい!」と言いたい自分と、「何か分からないけど、この子にとって面白いものを見つけたんだろう。せっかく集中しているんだから、中断させないほうがいいかもしれない」という理性的で物分かりのいい自分とが、毎度毎度、激しくぶつかり合っていたんだよ。

子育てを二十数年して、お教室でもたくさんの子供を見てきた今なら、「何か面白いものを見つけたのかな?」と聞く余裕もあるけれど、子育て初心者のあのころは、そんな余裕は全然なかった。もし「何を見ているの?」と聞いても、幼いキミは「これ!」としか答えなかったかもしれない。ただ、好奇心にきらきら光るその瞳を大事にしよう、と必死に自分に言い聞かせていた。まさか、その答え合わせをする日が来るとは思ってもいなかったけれど。

子供のペースにどこまで付き合うか

「早く早く!」「さっさとしなさい」と大人のペースに合わせることばかりを強要するのは良くありません。しかし、子供のペースに合わせてばかりでも、しつけや社会的行動の教育が緩くなりがちです。

子供の心や頭は、大人から見ると余計な寄り道と思える時間の中で、ゆっくりゆっくり豊かに育ちます。たとえば、将棋の藤井聡太さんのお家では「子供には子供の時間があるから、それを尊重してあげよう」という考えと、人としてのしつけを両立させていたようです。こういう環境なら、深く根気よく考える思考力や集中力が育ちやすいと考えられます。反対に、日常的に急かされて育った子供は、反射行動が強くなる傾向が見られます。自分の頭や心でしっかり考えて行動するのではなく、焦りや恐怖心などに急かされて本能的に行動する傾向です。

エンゼルプランVの教室では、子供のペースを大事にしながら、「自分でできる、達成感を味わう」を応援します。しかし、年中さんぐらいになったら、「まわりのお友だちが待ってくれているよ。お友だちを待たせないようにすばやく行動することも、立派なことですよ」と導きます。
両立は難しいですが、参考にしてみてください。

(「Are You Happy?」2020年11月号)

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奥田敬子 

早稲田大学第一文学部哲学科卒業。現在、幼児教室エンゼルプランVで1~6歳の幼児を指導。毎クラス15分間の親向け「天使をはぐくむ子育て教室」が好評。一男一女の母。

 

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