素直な心って、どんな心?
パナソニックの創業者である松下幸之助さんは、経営の神様のような方ですが、生前よく社員のみなさんに「素直な心の大切さ」をお話しされていたそうです。私も、学生時代に松下さんの言行録を愛読し、「素直な心って、どんな心なのかな? なぜ、素直な心を持つことが成功につながるのかな?」としばしば考えていました。
たとえば、素直に人の話が聞ける人というのは、他者の話をよく聞いて、話の内容を真っ直ぐに受け止めることができる人のことです。あるいは、自分と反対の意見や批判に対しても、きちんと耳を傾けて、反省したり、そこから学んだりできる人のことです。素直さは、心の純粋さや柔軟さ、心の広さと関係するようです。
これを小学1年の子供でたとえると、素直にお話を聞ける子というのは、先生が教えてくれる算数の解き方を、まずよく聞いて、「へー、そうやるのかぁ。じゃあ、ぼくもその通りやってみよ!」とすぐにやり方をまねてやってみるような子供です。
やわらかい心
私は、「素直な心とは、やわらかい心のこと」と表現したいと思います。
固い心は、人の話を聞けなかったり、反射的に反発したり、弾(はじ)いたりして、他の意見を容易に自分の中に受け入れることができません。反対に、やわらかい心は、人の話を捻(ね)じ曲げたりせず、まず聞こう、まず受け入れてみよう、まずやってみようとする心です。
このことから分かるのは、素直さと学習力は密接な関係にあるということです。勉強だけでなく、スポーツでも、お稽古事でも、社会常識でも、まずは先生や大人の教えを学んでまねるところから始まります。イラストにあるように、子供が水泳の練習をするとき、先生のお話をよく聞いてやった子は比較的スムーズに上達します。でも、お話を聞かないで自分なりにやると、結果的に遠回りをすることがよくあります。いつも素直な子と、よく遠回りをしてしまう子の差は、先へ行けば行くほど大きくなると想像できます。素直で純粋な心は、何事にも吸収力が高い、とても良い心です。ところが近年、「素直さ」という言葉を誤解した言論を見かけるようになりました。「素直な子っていうのは、大人の言うことを何でもはいはい聞く、自己主張のないおとなしい子。結局、大人にとって都合のいい子」という間違った捉(とら)え方です。思春期の子供に、「昔は何でもお母さんの言うことを聞く素直ないい子だったのに!」なんて言ったら、子供は素直という言葉を、自分の個性を否定して削り落とすヤスリのように感じて、誤解するかもしれませんね。これは、大人も気をつけなくてはなりません。唯々諾々(いいだくだく)は素直さではありません。
大人も子供も、素直な心の持つ吸収パワー、成長パワーを知って、大切にしたいですね。
(「Are You Happy?」2019年7月号)
奥田敬子
早稲田大学第一文学部哲学科卒業。現在、幼児教室エンゼルプランVで1~6歳の幼児を指導。毎クラス15分間の親向け「天使をはぐくむ子育て教室」が好評。一男一女の母。