経験者に聞く 不妊治療の選択と決断

女性の生き方も価値観も多様化しましたが、「子供がほしいのに、できない……」そんな悩みを人知れず抱えている女性は少なくありません。
「不妊治療はするべき?」「いつ始めればいい?」「やめ時はいつ?」など、
不妊の悩みについて、経験者の声から考えます。

産婦人科医に聞きました!不妊治療の基本のキ

不妊治療の技術は日進月歩で、社会の受け止め方も変わってきています。
自身も不妊治療を受けた経験のある産婦人科医の田口早桐さんに、不妊治療の基礎知識や最新の治療法について聞きました。

不妊症は、一般的な病気とは違って、体の不調などの明確な症状がありません。だから受診を迷う方も多いのですが、治療を始めるタイミングは、早ければ早いほどいいです。まずは婦人科などに、気軽に相談していただきたいと思います。
昔は家族にも治療をしていることを秘密にする方が多かったのですが、「妊活」という言葉が生まれたり、芸能人が不妊治療を公表したりしたことで、治療に対する抵抗感は薄れてきました。また、高齢で出産する人も増え、私が研修医だったころは、40歳以上の患者さんは治療をお断りしていたのですが、今は当院に通う患者さんの平均年齢が約40歳ですし、50代で通っている方もいます。
もし不妊治療に引け目を感じている方がいるのなら、社会の受け止め方も治療技術も変わってきていますので、安心して治療に臨んでいただければと思います。

不妊治療の3STEP

STEP1 タイミング法

まずは排卵日を調べ、その前後で性交渉を持つことを試します。タイミング法と並行して、子宮や卵管、精子の検査を行いますが、検査結果によっては人工授精から始めることも。生理が不順な場合は、検査で排卵日を調べたり、薬で排卵を誘発してタイミングを合わせます。

STEP2 人工受精

体外受精と間違えられることもありますが、体外受精のような複雑なプロセスはありません。採取した精液を調整し、子宮の中に注入するだけです。精液の調整にはさまざまな方法がありますが、私が勤めている病院では、遠心分離機で元気な精子を取り出しています。

STEP3 体外受精

人工授精がうまくいかなければ、卵子を取り出し、受精させてから体内に戻し、着床を試みます。昔は「できるだけ自然に妊娠するほうがいい」という風潮でしたが、年齢が上がると染色体異常で赤ちゃんのできない卵子も増えるため、早めに体外受精に切り替える方も増えています。

素朴な疑問にお答え!不妊治療Q&A

田口先生に、不妊治療を考えている人や、治療中の人からの悩みや疑問に答えてもらいました。

Q. 産婦人科の受診前にしておくべきことは?

A.基礎体温月経の記録があるとスムーズです。

基礎体温や月経、不正出血などの症状について記録しておくと参考になります。月経周期が長い人も短い人も、排卵日から次の月経までは2週間なので、逆算すれば排卵日が分かります。最近は、排卵日を調べられるスマートフォンのアプリもあるので、自分でタイミング法を試すこともできるでしょう。
ぴったり排卵日に合わせるのではなく、その周辺で性交渉を持つようにしたほうが、妊娠しやすいです。

Q.最新の妊活事情について教えてください

A.凍結技術の進歩でより多くの人にチャンスが。

新しい薬も開発され、体外受精のリスクは減ってきています。昔は多胎児になるリスクを犯して、複数作っておいた受精卵をいくつも移植していましたが、今は凍結技術の進歩によって、一度に一個の受精卵の移植で済むようになりました。卵子や受精卵を凍結しておくことで、そのときの年齢の状態を保てるメリットも大きいです。海外赴任や病気の治療のために妊娠・出産できない人も、落ち着いてから受精卵を移植するなど、チャンスを得られるようになってきています。

Q.夫が治療に協力してくれません……

A.プライドを傷つけず、論理的に分かってもらいましょう。

ご主人の協力を得るのは、妊活における一番難しい問題かもしれません。感情的に話をすると、相手が防御に入ってしまい、話し合いができないことがあります。まずは「話の中で分からないところがあるから、一緒に聞いてくれない?」と、病院に来てもらうと良いかもしれません。男性にとって、女性の体の悩みはまったく未知の分野の話ですから、医師から科学的に妊娠の仕組みを解説されると、理解が進んで協力的になってくれることが多いです。

Q.不妊治療に先が見えなくて不安です……

A.「どこまでやるか」自分で決めることも大切です。

不妊治療は妊娠するまで成果が見えづらく、先が見えない苦しみは大きいと思います。そういう患者さんには、「『私はここまでやろう』と、自分で“出口”を決めていいんですよ」とお伝えしています。それぞれ体調や予算の都合もありますし、「50歳までできることをしよう」という方もいれば、将来のことを考えて早めにやめる方もいます。大切なことは、一人で抱え込んで自分だけで決めようとしたり、逆に医師に言われるままに治療したりするのではなく、その都度相談しながら自分の納得できる選択をしていくことです。

Q.先に妊娠した人に嫉妬してしまいます

A.競争せず、夫婦で協力して取り組んでいきましょう。

誰かが妊娠したという話を聞くたびに「私の方が結婚は早いのに」「年上なのに」と悩むかもしれません。しかし、不妊治療は人との競争ではありません。人と比べるのではなく、ご主人と支え合って、落ち着いて取り組みましょう。妊活は夫婦にとって大きな試練のひとつです。不妊の原因がどちらにあっても、2人の問題として受け止めることができれば、より絆が強くなるはず。不妊治療の中で嫌なこともあるかもしれませんが、それを「良い経験」にできるかどうかは、取り組み方で変わります。不安に思いすぎず、何があっても人生の糧にしていく気持ちを持つことが大切だと思います。

田口先生の妊活体験 努力では解決できない初めての出来事

私自身も、35歳のころから不妊治療を始め、6回目の体外受精でようやく妊娠しました。不妊治療を始めたころは、うまくいくと思っていた体外受精で妊娠できず、悔しかったり落ち込んだりと、感情がジェットコースターのようになっていました。しかし、不妊治療を続けていくうちに、なんとか感情の起伏に慣れ、「やるしかない」という覚悟が固まり、乗り越えることができました。
私にとって不妊治療は、初めて自分の努力だけではどうにもならない壁にぶつかった出来事でした。「勉強をしてテストで良い点数を取る」ということではない、自分の力ではどうにもできないことがあると知った経験は、その後の人生に活きています。今振り返ると、とても良い経験ができたと思います。

(「Are You Happy?」2021年4月号)

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田口早桐 たぐちさぎり

産婦人科医・生殖医療専門医

川崎医大卒業後、兵庫医科大学大学院にて、不妊症について研究。兵庫医科大学病院、府中病院を経て、医療法人オーク会にて不妊治療を専門に診療に当たる。

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