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大人色のピンクー岡野宏のビューティーレッスン

40年にわたりNHK美粧部に在籍し、国内外の女優や政治家などのメークアップに携わってきた岡野宏さんが考える「魅力ある人」とは? さあ、一緒に美しさへの一歩を踏み出しましょう。

ピンクで若返る

聖路加病院の故日野原先生と講演会でご一緒したときに、ピンク色の話になりました。ピンクをメークや洋服に用いると、優しさ、女性らしさ、かわいさなどがふとした仕草や表情に表れます。

「ピンクには攻撃的な気分を抑え、女性ホルモンを活発にさせる働きがある」

と日野原先生はおっしゃいました。緊張を和らげ、安らぎを与えてくれるのだそうです。それとともに、ピンクは身につけた人をソワソワドキドキさせる色でもあります。

あるとき、スタジオの廊下の向こうから、森光子さんが、ピンクのブラウスを揺らしながら軽やかな足取りでやってきました。

「恥ずかしながら、ピンクを着てみたくなったの」

日野原先生いわく、ピンクを着て恥ずかしいと感じる、そのドキドキする気持ちが成長ホルモンを活発にするのだそうです。いつまでたっても準備に入らない森さんをマネージャーが着替えるよう促しました。

「だって脱いでしまうと、この気持ちが、どこかに逃げてしまうような気がするのよ」

ピンクは見た目だけでなく、心を若返らせる色だということを、森さんを見ていて納得しました。

 

日本人に合うピンク

ひとくちにピンクと言ってもさまざまなニュアンスの色みがあります。伊東ゆかりさんがサンレモ音楽祭に出演したとき、現地の人が着ている青みがかったピンク色のブラウスが気に入り、街を探し歩いて購入しました。ところが日本に戻って着てみると、しっくりこないと言います。地中海の明るさに負けたのか、イタリア人のかっこよさに惑わされたのか、いろいろな着こなしを試しましたが、結局似合わなかったそうです。

欧米人が好む青みがかったピンクは、私たち黄色人種には、似合い難い色みです。青みが反射し、顔色がくすんで見えます。若い人で、このようなきれいなピンクの似合う人がいますが、それは血行がよく張りのある若い肌だから着こなせるのです。

黄色人種には、オレンジ、グレー、ブラウンみを帯びた淡い色調のサーモンピンクやグレーピンク、ベージュピンクなどを合わせると肌栄えがし、特に、くすみを感じ始めた40代以上の人の肌を美しく魅せる効果があります。

ファッションデザイナーの植田いつ子さんが皇后・美智子さまのために仕立てたブラウスは、チャコールグレーをほんの少し加えたような、上品で落ち着いた淡いピンクのブラウスでした。植田さんがお勧めしたときに、美智子さまは少々お考えになられたそうですが、お召しになると微笑まれたそうです。

大人色のピンクはきれいなだけのピンクと違い、品よく感じよく、着ていてドキドキするほどうれしくなります。ピンクが気になっていたけれど手が出なかったと思う方は、ぜひ試してみてください。

 

男性のピンク

ピンクは女性だけの色ではありません。男性がYシャツやポケットチーフにピンクを使うことにより、過度の男らしさが取れ、声をかけやすい雰囲気になります。

俳優の松田優作さんに、若い女性の演出助手がついたのですが、彼女は緊張から彼に話しかけられませんでした。「お願いします」という声が震えています。

そんなとき、秋吉久美子さんが優作さんに、淡いサーモンピンクのストライプ柄のシャツを渡しました。

「シャツは黒か白しか着ないんだけどな」

その晩、レストランで開かれたロケの中間打ち上げの食事会に、優作さんはピンクのシャツを着て現れました。照れくさいのか、うつむいている優作さんに、演出助手が駆け寄ります。

「どこか具合でも悪いのですか」

秋吉さんがニヤリとします。

「あら、あなた、優作さんと話せるじゃない」

「自然に声が出ました」

「やっぱり本当なのね。〝緊張を和らげる〞というピンクの伝説」

大人色のピンク本文

© K’s color atelier

「気になるピンクを見つけたら、さまざまな色や形と組み合わせてみましょう。」

 

今月のレッスン
大人色のピンクは、デザインや配色で格好よさをプラスすると雰囲気よく仕上がります。

 
(「Are You Happy?」2018年4月号)

 


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岡野宏 

1940年、東京都生まれ。テレビ白黒時代よりNHKアート美粧部に在籍。40年以上にわたり、国内外の俳優だけでなく歴代総理、経営者、文化人まで、延べ10万人のメークやイメージづくりを行う。“「顔」はその人を表す名刺であり、また顔とは頭からつま先までである”という考えのもとに行うイメージづくりには定評がある。NHK大河ドラマ、紅白歌合戦等のチーフディレクターを務め、2000年にNHK退所後は、キャスターや政治家、企業向けにイメージアップの研修や講演活動などを国内外で行っている。著書に『一流の顔』(幻冬舎)、『渡る世間は顔しだい』(幻冬舎)、『トップ1%のプロフェッショナルが実践する「見た目」の流儀』(ダイヤモンド社)、『心をつかむ顔力』(PHP研究所)等。

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