油井誠の映画で見るファッション

連載「希望の洋服店」でおなじみの油井誠氏が、「デザイナー伝」「メンズクラシック」「コスチューム」「現代ファッション」の4つの視点からファッションと映画をご紹介します。〔2017年1月号掲載〕

 

女性の装いに自由をもたらしたココ・シャネル

デザイナー伝では、「アメリ」のオドレイ・トトゥが、シャネルの青春時代から世に出るまでを瑞々しく演じた「ココ・アヴァン・シャネル」(09年)がおすすめです。幼くして修道院に預けられ、18歳で洋裁店助手となり、夜はキャバレーで姉と歌う生活。知り合った貴族バルザンを訪ね、「パリの姉を訪ねたら留守で」と機転を利かせて居候してから人生が開き始めました。厳しくも与えられない人生でしたが、限られた可能性を智慧と勇気で選び取る女性が描かれます。20世紀初め、コルセットで締めたロングドレスに大きな羽根飾り帽子が常識の中、メンズのシャツやジャケットをアレンジした装いに黒いキャノチエ姿は異質でした。結果的に女性の装いに自由をもたらしたシャネルですが、その役割のために「与えられない」という導きが必要だったのかもしれません。現シャネル社も全面協力しています。

ココシャネル

 

再注目の着こなし、メンズクラシック

ベストやスリーピース再注目の今、メンズクラシックでは「スティング」(73年)がお手本です。ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが、ギャングの親玉から大金をだまし取るSTING(信用詐欺)を仕掛ける痛快なお話です。禁酒法廃止後の1936年シカゴ。舞台劇のような場面展開で、実は観客も騙されていたと気付かせる仕掛けもあり。腰高な太めパンツにサスペンダー、ベストとジャケットにハットで決めるクラシックなスタイルが新鮮で、ポール・ニューマンのベストやタキシード姿がほれぼれするほどカッコいい。

「華麗なるギャツビー」(74年)もロバート・レッドフォード主演で、脚本はフランシス・フォード・コッポラでした。禁酒法真っ只中の1920年代、太いパンツにジャケット、共地のベストに派手なタイの男性と、スパンコールやラメドレスでチャールストンを踊る女性たちのファッションが華やかです。虚飾で固めた男心の純粋と、上流階級の心の虚ろを対比させているため独特の虚しさは残るものの、アカデミー賞を受賞した白を基調とした衣装デザインがまるでギャツビーの夢の世界。クラシックカーに並んだ男たちのスリーピース姿がとても美しいのでした。

 

絵画から再現した衣装にうっとり

コスチュームプレイの「恋におちたシェイクスピア」(98年)は、ジョセフ・ファインズがシェークスピア、グウィネス・パルトローが貴族の娘ヴァイオラに扮します。

舞台は16世紀末。テムズ川を挟んで2つの芝居小屋がありました。スランプの俳優兼劇作家シェークスピアの新作に、訳あり俳優トーマス・ケントがオーディションに。「ロミオとジュリエット」を書きながら進行する舞台リハーサルと、筆が進むきっかけとなるシェークスピア自身の恋を絡め、見る側も舞台の観客気分になれます。我々の人生も、天上界からはこんな風に見えているのかも。

主演女優、助演女優、衣装などアカデミー賞に輝きましたが、エリザベス一世役ジュディ・デンチが圧倒的存在感で、絵画から再現した女王の衣装は一見の価値あり。

 

働く女性のお手本となるきれいめファッション

現代もので外せないのは「プラダを着た悪魔」(03年)でしょう。メリル・ストリープが怪物編集長を快演、アン・ハサウェイが新人アシスタントを初々しく演じました。編集長ミランダは実在のAMERICANVOGUE 編集長がモデルらしく、かなり怖いです。イケてない主人公・アンドレアが、センスのよい同僚男性の助けで見違えるようにハイファッションの数々を着こなし、できるアシスタントになっていく様子がテンポよく描かれます。

「マイ・インターン」(15年)もおすすめです。急成長を遂げるネット販売会社社長ジュールズをアン・ハサウェイが、社会貢献の一環として募集したシニアインターンに応募する、定年後を持て余すベンをロバート・デ・ニーロが演じます。ジュールズの着こなしは、働く女性のきれいめファッションとして参考になりそう。

マイインターン

仕事に格闘する若い世代と、人生経験豊富なシニア世代が、お互いをいぶかしみながら徐々に助け合う関係になる様子がおかしくもどこか天国的です。若者はシニアの知恵を頼り、シニアは謙虚ながらも惜しみなくサポート。こんなインターン制度、日本にもあればいいのにと思いました。名優ロバート・デ・ニーロが、重厚過ぎずにいい味出しています。

映画の楽しみは色んな人生と感情を追体験できること。衣装デザインも楽しみのひとつです。自分の人生も守護霊の目から観た映画のように、冷静に愛情をもって見直せたらいいのにと思いますね。

 
(「Are You Happy?」2017年1月号)

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長野県生まれ。関西外国語大学外国語学部英米語学科在学中にアメリカへ留学。卒業後、セツモードセミナーで絵と服飾デザインを学び、編集記者、ファッションモデルエージェントを経てファッション業界へ。メルローズのプレスを皮切りに、Men’s Melrose、TAKEO KIKUCHI、パーリーゲイツのメンズデザイナー、伊勢丹研究所のメンズコーディネーター、ラコステのメンズMDチーフ、リーバイ・ストラウスジャパンのバイヤー、MDプランナーなどを務める。現在はフリーランスとして活動中。