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「夏に赤を身につける」-岡野宏のビューティーレッスン

 

シミやシワを弱めて見せる赤

夏の太陽に負けない強さを持つ赤色は、口紅や衣装で身につけると、顔にできたシミやシワの印象を弱めてくれる働きがあります。そんな赤色をわが物にしてみたいと思いませんか?

 

グロスとマットで表情を変える

パリのモンマルトルにあるムーラン・ルージュという歴史あるキャバレーで、魅力的な2種類の赤い唇に出会いました。

ひとつは、女優マレーネ・デートリッヒが3年間、手塩にかけて育てたアフリカの少女の唇です。モカ・チョコレート色の肌に、きらめく赤い唇。そのとき、初めてグロスというものを知ったのですが、伝統あるキャバレーの中で人間臭さが消された光る赤は、新しいスター誕生を予感させました。

それに対して、ショーのラストを飾るカンカンの踊り子たちの口紅のマットな赤の華やかさといったらありません。以前、シラク前仏大統領が、「カンカンの踊り子の赤は、ムーラン・ルージュの看板と同じ風車の赤で、大衆的に見えますが、実はツーンとすました赤、世界一の踊り子のプライドを表した色なのです」と教えてくださいました。

赤は、見せ方でその表情をさまざまに変えるということを改めて感じたのです。

 

気の持ち方で変わる赤

ところで、デオドラント剤のCMに登場する渡辺直美や、UV化粧品のCMの森星ひかりのつける赤い口紅が素敵に映るのは、彼女たちの動きがシャキッとしているからです。

春の高校野球で見た智辯(ちべん)学園の深紅のシャツと靴下は、勝ったときは、とても華やかで目立ち格好よく見えたのですが、負けると裏寂しさを助長していました。赤は、身につける人の気持ちひとつで、その表情をころりと変えてしまう怖さがあります。

様式美の代表である歌舞伎「助六縁之江戸桜」に登場する遊女・揚巻が見栄を切った瞬間、口紅と衣装の赤が美しく際立ちますが、赤はシャキッと格好よく身につけることで、その美しさが引き出されるのです。

 

赤を格好よく身に着けるには?

女優の夏木マリさんは、赤使いの名手です。スタッフの手違いで野暮ったい衣装で格好いい外資系OLを演じなければならなくなったとき、彼女は全身が写る鏡の前で、細いベルトやハイヒールを合わせ、格好よい仕草や身体の動きを繰り返して探り、自分自身に見せて慣れさせていました。そして、周囲から「マリさん、格好いい」という声が上がってから、最後に赤いマニキュアと口紅を加えたのです。

赤は自信を持って使うことが大切です。ピリッと薬味のように、おしゃれの最後を締めるのに少量加えるのがセンスのよい使い方です。何度も鏡にその姿を映すうちに、身につけた赤が、似合う仕草を見つけさせてくれるでしょう。

 

眼より脳に印象づける

来日した国立スペイン舞踊団がフラメンコのリハーサルをしていたときのことです。主役が黒い衣装で踊るのを見たプロデュー
サーが団長に注文をつけました。
「真っ赤な衣装に変えてほしい」
「いや、全体の構成からこうなったので変えることはできません」

そのやりとりを聞いていた主役の踊り手が言いました。
「どうぞ、ご安心を。この黒い衣装を赤く変えてみせましょう」

迎えた本番、前半では失恋した女の寂しさをにじませた黒い衣装が、後半になって、ギターと声が激しく、靴音が甲高くなり、踊
り子の髪が乱れるとともに赤く変わったのを私は観ました。作家で精神科医でもある北杜夫さんによると、眼で見たものより心が
受けとった印象のほうが、脳で形付け、色付けられるのだそうです。赤を魅力的に見せるのは、身につけている人の見せ方次第なのです。

今年は、シャキッとした姿で、夏の赤を楽しんでみませんか。

岡野先生第4回本文用

© K’s color atelier

「褪せることのない記憶の色をたどってみましょう。」

 

今月のレッスン
赤を身につけて、鏡の前でいろいろな仕草を試してみましょう。

 
(「Are You Happy?」2017年8月号)

岡野宏先生

岡野宏 

1940年、東京都生まれ。テレビ白黒時代よりNHKアート美粧部に在籍。40年以上にわたり、国内外の俳優だけでなく歴代総理、経営者、文化人まで、延べ10万人のメークやイメージづくりを行う。“「顔」はその人を表す名刺であり、また顔とは頭からつま先までである”という考えのもとに行うイメージづくりには定評がある。NHK大河ドラマ、紅白歌合戦等のチーフディレクターを務め、2000年にNHK退所後は、キャスターや政治家、企業向けにイメージアップの研修や講演活動などを国内外で行っている。著書に『一流の顔』(幻冬舎)、『渡る世間は顔しだい』(幻冬舎)、『トップ1%のプロフェッショナルが実践する「見た目」の流儀』(ダイヤモンド社)、『心をつかむ顔力』(PHP研究所)等。

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