「ありがたい、ありがたい」
おじいちゃんやおばあちゃん世代の方々は、子供や孫に感謝の心を教えるのが上手だなあと思うことがあります。それは戦後の物のない時代を生き抜いたり、長い人生でさまざまな経験をするなかで、当たり前と思えるものの「ありがたさ」を実感されているからだろうと思います。私も子供のころ、おじいちゃんやおばあちゃんからこんな言葉をたくさん聞きました。
「お天道(てんとう)様はありがたいなあ。お天道様のおかげで、田んぼの稲も畑の作物もよく育って、今日もおいしいお米や野菜をいただける」
「梅雨時はみんな雨をうっとうしがるけど、雨が降らなかったら、何にも育たないのにねえ。天から降る雨にも、もっと感謝しないといけないね」
「新幹線を考えてつくった人たちは偉いなあ。こんなに速くて楽に移動ができてありがたい。昔は堅い木の椅子の夜行列車に乗って、寒くて震えながら東京まで行ったのよ」
「私らの子供のころには教室に5冊しか教科書がなかったから、みんなで交代で見合ったのよ。家の手伝いで学校に来られない子もいた。今はみんな勉強しようと思えばいくらでも勉強できる。本当にありがたい時代よ」
「本はありがたい。本には昔の人の知識や知恵がいっぱい詰まっているから、本を読んだら賢くなれる。だから本にも感謝して、粗末にしないようにね」
「今日も命があってありがたい」
「この年まで健康でありがたい」
「けんかしながらも助け合える家族がいてありがたい」
おじいちゃんやおばあちゃんは、きっと長い人生のなかで「不自由なこと」や「失うこと」をたくさん経験して、今日という一日があることが決して当たり前ではないことを、実感として分かっているのでしょう。
また、神様や社会全体から見たら、自分が小さな存在で、生かされている存在だということも、よく知っているのだと思います。だから、傲慢になることなく、お日さまにも、雨にも、本にも、命にも、健康にも、家族にも感謝して生きることができるのでしょう。
何でもかんでも、あって当たり前、してもらって当たり前と思ったら、神様にも人様にも感謝をすることを忘れます。「親が勝手に生んだと言い、ひとりで大きくなったような顔をして、感謝を忘れて生きたら、神様に怒られるよ。罰が当たるよ」と教えてもらったことを、今はとてもありがたいと思えます。
心からの「ありがとう」を
こういう感謝の心を、私たちも子や孫の世代も見習いたいなと思います。
人から何かをもらったとき、「ほら、ありがとうございますって言いなさい」と子供に声をかけるお母さんは多いと思います。確かに「ありがとう」を言えることは大事です。でも、子供が「ありがとう」を、世間付き合いや処世術のルールのように学んだり、「こういうときはこう言っておくもの」という儀礼的なパターンで「ありがとう」を学んでほしくはないなと思います。
まずは、お母さん自身が感謝をしながら「ありがたいね」と子供に語りかけてみましょう。こんなことをしてもらってありがたい、うれしいという気持ちがあって、その表れとして「ありがとう」を心から言えるような子供たちをたくさん育てていきたいですね。
(「Are You Happy?」2020年7月号)
奥田敬子
早稲田大学第一文学部哲学科卒業。現在、幼児教室エンゼルプランVで1~6歳の幼児を指導。毎クラス15分間の親向け「天使をはぐくむ子育て教室」が好評。一男一女の母。