【体験談】ダウン症の育子の使命は、周りの人の心を育むことでした。

34年前、小川桂子さんのもとに生まれてきた長女・育子さんは、ダウン症と診断されました。子育てに葛藤しながらも、“親子の縁”や育子さんの使命を心から確信するまでの道のりについて聞きました。

妊娠中のインスピレーション

(私は障害を持って生まれます。お母さん、大変でしょうけれどがんばってくださいね)

長女・育子の妊娠4カ月目ごろです。入浴中、突然おなかの中から声が聞こえてきました。妙に気になりましたが、検診では「おそらく問題はない」との診断。ところが、出産後、助産師さんが「女の子ですよ」と連れてきた娘の顔にはダウン症の症状があったのです。

子育ては本当に大変で、「社会の役に立たない子を育てなくちゃいけないなんて、私の人生めちゃくちゃだ!」と、ずっと葛藤を抱えていました。成長するにつれ、買ったばかりの靴に靴墨を塗ったり、朝の5時に他人の家に上がり込んだりと、度を超えたイタズラを繰り返すようになると、イライラが募り、強く頬を叩いてしまったこともあります。

このままではいけないと思っていたある日、友達が持ってきてくれたのが、『太陽の法』という本です。内容に感動した私は、著者である大川隆法総裁の書籍を何冊も読みました。

人は生まれる前に人生計画を立て、親子になることも約束してきている。障害を持って生まれることもあるが、魂は健全である―。

書籍で説かれている教えにハッとしました。

「私、間違ってた! ごめんね、育子ともう一回人生やり直すから……」

自分のこれまでの考えを恥ずかしく思った私は、育子を抱きながら涙を流しました。

私たちの最後の人生課題

でも、教えを学び始めてからも、育子の障害を100%受け入れるのは困難でした。転機が訪れたのは、育子が15歳のときです。特別支援学校の高等部に通っていた育子は、突然学校に行けなくなってしまいました。育子よりも障害の軽い生徒に学級委員を譲ることになり、リーダータイプだった育子は、居場所を失ったように感じてショックだったようです。

「学級委員ができなくなって悲しいかもしれないけど、みんなを笑わせて和ませるところが育ちゃんのすごいところだよ」

そう話した次の日、育子はまた学校に行き始めました。しかも前よりジョークがうまくなり、クラスの人気者になりました。普通の子でも、思春期には自分の存在意義について悩みますが、育子も同じように、悩みを乗り越えて成長している……。この出来事を機に、「育子の魂は健全だ」と確信し、同時に私たちが親子で生まれた意味を理解したのです。

私は昔から「社会の役に立てる人が価値のある人間だ」と思っていました。だからこそ、ダウン症の子を育てなければいけないことはショックでした。しかし神様に与えられた人間の価値は、そのように限られたものではありません。そのことを教えるために、育子は娘として生まれてきてくれたのです。

育子は自分と他人の壁がない子です。人が泣いていると同じように悲しく、人が笑っているとうれしい。鏡のようなその姿は、家族や周りの人にいろいろなことを教えてくれました。育子が19歳になった夏、何気なくこんな話をしました。

「小さいころ、ひどいことをしてごめん。でも今は育ちゃんのこと大好きだよ。生まれてきてくれて、本当によかったと思ってるよ」

その瞬間、育子が、生まれて初めて大声を上げて泣き始めました。何十分も親子で抱き合って泣き続け、しばらくすると―。

(育子を連れていきます)

妊娠中におなかの中から声が聞こえたときと同じ感覚でした。きっと私たち親子の最後の人生課題は直接、「生まれてきてくれてありがとう」と伝えることだったのでしょう。この瞬間、育子の今世の使命が終わったと直感してしまったのです。

その年の12月に、育子は生まれつき悪かった肺の状態が悪化して入院。「もう少し一緒にいたい」という思いを抑え、最後に伝えるべきことを伝えようと覚悟を決めました。

「お迎えのお姉さんが来たら、一緒に行くんだよ。もしかして、もう来てる?」

育子はうなずき、病室の入り口を指さしました。そしてその日のうちに、安らかに息を引き取ったのです。

育子が教えてくれたこと

育子の使命は、ダウン症として周りの人に大切なことを気づかせる“菩薩行”だったと思います。「周りの人の心を育む子」で「育子」。その名前も、きっと自分で選んできたのでしょう。私は育子から、優しさや愛を教わりました。2012年からは障害児支援の「ユー・アー・エンゼル!」運動に携わることになり、育子を育てた経験が活きています。

出生前診断で生まれる前にダウン症だと分かると、中絶するケースが増えているそうですが、大事な人生計画を反故にしてしまうのは悲しいことだと思います。私は育子を生んで本当によかったですし、感謝の思いでいっぱいです。これからも、育子から学んだことをたくさんの人に伝えたいと思っています。

(「Are You Happy?」2019年1月号)

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