40年にわたりNHK美粧部に在籍し、国内外の女優や政治家などのメークアップに携わってきた岡野宏さんが考える「魅力ある人」とは? さあ、一緒に美しさへの一歩を踏み出しましょう。
読まれている眉
眉は、自分の意志で形を変えることができるパーツです。
「眉を見られていると、心を見透かされている気分」という方がいらっしゃいましたが、その通りで、眉は相手に読まれています。
眉は健康のバロメーター
かたせ梨乃さんと3カ月間、仕事をご一緒していたある日、調子が悪そうだったので声をかけました。
「あら、どうして分かったの?」
「くたびれていると眉がいつもより下がり気味になるんです。それと、描かれた眉が、強く一本調子になっているのは疲労がたまっている表れです」
体調不良を隠そうと、つい強く濃く描いてしまったのでしょう。眉は健康のバロメーターにもなっています。
人を遠ざける美しい眉
ある大使館の窓口担当の女性職員ふたりから相談されました。
「私のいる窓口は空いているのに、彼女の方ばかり混雑してしまって……」
そう言った彼女の眉は、きれいに整えられ、産毛も剃られ一分の隙もありませんでした。一方、列が連なる女性の方は、生まれたままの自然な感じが残る眉をしています。
「眉が原因のひとつかもしれませんね」
デビュー前の女優やアナウンサーからイメージ作りの相談を受けますが、多くの方は、きれいに整えた眉で私の元へやってきます。美しいメークが人の心を引き寄せるとは限りません。かえって身構えたような壁を作っていて、親しみやすさにかけることもあるのです。
初めてお会いしたときの女優の大原麗子さんも、六本木を闊歩(かっぽ)する若者のような細眉にされていましたが、デビューに合わせて眉を伸ばしてもらいました。産毛も残してもらい、お酒のCMで見せたような愛くるしい印象を加え、見た方が安心して入り込む隙を眉に残したのです。
大使館の女性にその話をしたところ、「私の眉が皆さんを緊張させていたなんて思いもよりませんでした」とおっしゃっていました。
相手にも自分にも響く眉
緊張感のある眉で魅力を得ているのは女優のソフィア・ローレンです。
彼女の夫でもあるマネージャーが教えてくれました。
「彼女の大胆な顔立ちと性格は、そのまま見せたら単に大ざっぱで、その辺の娘と変わりません。だから、繊細にきれいに作りこんだ眉でバランスを取っているのです」
鏡前に並ぶ1ミリに削られた眉ペンシル20本を使い、彼女の眉は1本1本描かれます。美しい眉ができ上がると、ソフィアがお茶を勧めてくれました。
「イタリアから持ってきたレモンクッキーを、どうぞ召し上がれ」
先ほどまでとは違う洗練された彼女の振る舞いに、眉が与える自他への影響を感じずにはいられませんでした。
心に合う眉を見つける
日常生活でのメークなら、足りない部分に少し手を入れた程度の薄めの眉に仕上げると、柔らかい印象になり、自分自身の心も楽になります。常に完璧に仕上げた眉や、濃い眉にしていると、「何事もやり遂げる人」「強気な人」として扱われ、鏡を見た自分自身の肩にも力が入ってしまうものです。
そして、ここぞという時にきりりとメリハリをつけます。常にきれいでいるよりも見る人の気持ちを捉えることができますし、自分のスイッチも入るのです。
眉は、生まれたままの状態で意味があることは少なく、手の加え方でさまざまなものが表れます。時間のあるときに、色や形を変えて眉を描いてみましょう。心にしっくりくる眉が、そのときのあなたに似合う眉です。
© K’s color atelier
「眉に表れる 知性。何を想い 何に迷う。」
今月のレッスン
眉をいつもより明るい色や、暗い色で描いてみるだけで、新しい自分が発見できます。
(「Are You Happy?」2017年10月号)
好評連載中
「岡野宏のビューティーレッスン さあ、はじめましょうか!」
第42回 「世の中、美人が増えた!?」
(2020年9月号)
岡野宏
1940年、東京都生まれ。テレビ白黒時代よりNHKアート美粧部に在籍。40年以上にわたり、国内外の俳優だけでなく歴代総理、経営者、文化人まで、延べ10万人のメークやイメージづくりを行う。“「顔」はその人を表す名刺であり、また顔とは頭からつま先までである”という考えのもとに行うイメージづくりには定評がある。NHK大河ドラマ、紅白歌合戦等のチーフディレクターを務め、2000年にNHK退所後は、キャスターや政治家、企業向けにイメージアップの研修や講演活動などを国内外で行っている。著書に『一流の顔』(幻冬舎)、『渡る世間は顔しだい』(幻冬舎)、『トップ1%のプロフェッショナルが実践する「見た目」の流儀』(ダイヤモンド社)、『心をつかむ顔力』(PHP研究所)等。