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出会いが感性を育てる〔岡野宏のビューティーレッスン〕

感じる心を持っていますか?

大人が美しくなるために、なくてはならないもの。それは、感性です。感性豊かな人にメークをするとそれが呼び水となり、新しい世界が現れ、メークをしたこちらもはっとなります。
茶人の塩月弥栄子さんは「感性は育つもの、育てて、身につくもの」とおっしゃいました。稽古の最中、お弟子さんが素晴らしい感性に突然目覚める場に立ち会うことを、幾度も経験されたそうです。師である塩月さんの感性が呼び水となったのでしょう。感性を身につけるのは、ひとりでは難しいことのように感じますが、人の力を借りてみるのも一つの方法です。

出会いが感性を育てる

近ごろ、感動できない人が増えたと聞きますが、そのような方は、人嫌いのことが多いように思います。何を隠そう、私もその一人です。海外旅行が珍しかった当時、海外に行かせてもらえるという理由でこの仕事を選んだ私は、人嫌いなどと言っている暇もなく、仕事を通じ、歴代の総理、各国の大統領、芸術家などとお会いすることになり、感激、興奮し、抱き合い、時には顔を背けながらここまでやってきました。そして、彼らが呼び水となり、私の感性を育ててくれたのだと思っています。その中でも記憶に残るのが、ヘルベルト・フォン・カラヤンです。

感性を刺激するカラヤン

NHKでは、毎年ウィーンからニューイヤーコンサートを中継しています。1987年、指揮者がカラヤンだと発表されると、音楽ファンから歓声が上がりました。スタッフとして参加する私もカラヤンに会えるとドキドキしていたのですが、演奏曲にワルツ「春の声」と、喜歌劇「コウモリ」の序曲が含まれると聞き、重い気分になったのです。
小学生時分にそれらの曲を聴いて「楽しい!」と話す友の横で、眠さに負けてうたた寝をした自分に「音楽を楽しむ感性がないのだ」と悲しい気分になったことを思い出していました。
ところが、演奏が始まると、眠くなるどころか興奮で身体が震え、いつのまにかウィーンフィルの奏でる豊かな音の海に身体が揺れていました。「音楽って楽しい!」と心が弾みます。
そのことを口の悪い友人に話すと「年のせいで感じやすくなっているだけ」と言われましたが、私にしてみれば、「がんばってくれたね、感性くん!」です。
後になって冷静に考えると、間近で見ていたカラヤンの指先のツヤや髪のウエーブなど、どこをとっても隙のない美しさが呼び水となり、ウィーンフィルの高度な音の世界に引っ張り込んでくれたのでした。

人との出会いを楽しもう

世界的に有名な作曲家の武満徹さんにとっての呼び水は、市井の人たちでした。彼が仕事での送迎車を断り、バス、電車を使う理由を問うと、次のような答えが返ってきました。
「ある仕事を頼まれ、苦しんだとき、街を歩く人々の笑い声やざわめきに、ふと曲が整ったのです」
「自分と世の中の思考はつながっている」と分かってからは、五線譜に個の営みとして音符を書き込むのではなく、たくさんの人との触れ合いが曲を生み、そのことが質的にも曲を素敵なものへと変化させ続けていると感じたそうです。
「だから、できるだけ多くの人と知り合いになろう。ならなくても接していたい。という思いが強くなったのです」
春から続くコロナ禍で、世の中に人を遮断する空気を感じたとき、この武満さんの話を思い出しました。
人との出会いはお互いの感性を刺激します。行動派の人に感性の高い人が多いといいますが、感性を育てるためにも、あらゆる人と会いましょう。今のような時期だからこそ、一層、出会いは大切にしたいものです。

© K’s color atelier

新たな 出会いに 一歩踏み出そう

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