<看護師さんに聞きました>自分が望む最期の瞬間を迎えるために

慢性的な病気でそれ以上治療を受けない、また受けられない患者が入院する医療療養型病棟に勤める看護師・上床牧子さん。日々直面している医療現場の看取りの実態と、幸せな最期を迎えるための心がけなどをうかがいました。

看取りの現場で

都内の病院に勤める看護師の上床牧子さんは、日々さまざまな患者を看取り、その家族と接している。

「昨年、末期がんの男性が入院してきました。ご本人は何度も『家に帰りたい』と話していたのですが、24時間点滴を打たれている状態。ご家族の不安が強く、家には戻れない状況が続いていました。ご家族に点滴の管理の方法をお伝えするなど不安を取り除くことで、半年後にようやく家に戻ることができたのです。しかし10日後にはその男性が亡くなったという連絡が。あまりに早い報せに、『もっと早く帰してあげられれば……』と考えずにはいられませんでしたが、それでも、本人が望んだ場所で家族に看取られて旅立てたことは、幸せだったのではないかと感じます」

上床さんは、慢性的な病気で、それ以上治療を受けない(受けられない)患者が療養のために入院する医療療養型の病棟に勤務している。

「この病棟では“退院”というと、ほとんどの場合、看取ることになります。告知されてご自身の状態を理解している患者さんもいれば、認知症の方や寝たきりで自分では動けない方もいます。痛み止めで強い麻薬を持続点滴され、起きているのか、眠っているのかも分からないような状態でベッドに寝ている患者さんを見ると、複雑な気持ちになります」

どのように最期を迎えるか。誰も避けることのできないこの問いが、核家族化、高齢化が進む現代において社会的な課題ともなってきている。

 

恐怖からくる痛み

末期がんなどで死が目前に迫っているのを感じたとき、あの世を信じていれば、「天国に還かえるために残りの人生をどう生きよう」と考えられるが、あの世はないと考える人にとって、死への恐怖は計り知れない。

「肺がんの手術後、『苦しい、息ができない』と頻繁にナースコールを押す女性がいました。酸素マスクは付けているし、呼吸に異常があるわけでもありません。私はふと『この人は寂しくて、不安なのかもしれない』と感じました。いつものように病室へ呼ばれたとき、あまりにも苦しがるので、『あの世は本当にあるんだよ。あの世は心しか持って還れない世界なんだよ』と話したことがあります。その場では半信半疑の様子でしたが、安心したのか、ナースコールの頻度は減りました。そして1週間後に、穏やかに亡くなったのです」

死の恐怖は、ときに体にも影響を与えることがあるようだ。

「看護師としてさまざまな患者さんを見てきましたが、『恐怖によって痛みが増幅されている』と思ったケースは何度もありました。恐怖で体がこわばってしまうと、痛みが強くなるんですね。痛みに苦しむ患者さんに『大丈夫だから。ゆっくり深呼吸をすれば、痛みは止まるから』と体をさすってあげると、だんだん落ち着いて痛みがやわらいでいくことが多いです」

 

忘れられない旅立ち

上床さんには、今も心に残る「あの世への旅立ち方」がある。

「身内の話になってしまいますが、主人の母の旅立ちは忘れられません。義母は10年間肝臓がんと闘って病院で亡くなりました。信仰を持ち、あの世があることを確信していたので、入院中もいつも明るく、他の入院患者さんの悩みを聞いてあげていました。主治医の先生には『あなたを信頼してるんだから、大丈夫』と逆に励ましていたほどです。あの世を確信している人はこれほど強いんだ⋮⋮。そう教えてくれた最期でした」

どんな最期を迎えるか

21年間にわたって医療に従事し、さまざまな人の旅立ちを見てきた今、感じていることとは。

「どんな人でも、自分の人生を終えるにあたって"エンド・オブ・ライフ"をどのようなものにするか、選べるようになってほしいと思っています。体が動くうちに、どんな終末期を迎えたいかを考え、家族に伝えることは大切です。

しかし最終的にいちばん重要なことは、心の持ち方だと思います。義母のようにあの世があると確信していれば、自宅であれ病院であれ、どんな場所でも、立派に最期を迎えられるでしょう。すべての人にとって、生きているうちからあの世について学んでおくことはとても大切なことだと感じています」

 

【コラム】寝たきりでもちゃんと言葉は伝わる

私が勤めている病院には、さまざまな病気や怪我で寝たきりになってしまった患者さんも入院しています。看護師として日々接していると、体を動かせず声も出せなくても、こちらの言葉はちゃんと理解していることが分かるんです。「おはよう」と話しかけるとちゃんと視線で返事をしてくれますし、ご家族の方がお見舞いに来るととてもうれしそうな目をします。家族や知り合いに寝たきりの方がいれば、「どうせこちらの言ってることは分からない」と考えるのではなく、ぜひ優しく声をかけてあげてください。

(「Are You Happy?」2018年8月号)

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