場が変わると服も変わる
なじみのない服というのは、他人にそれが伝わるから不思議です。春に街角で、新入社員の人たちを見つけられるのは、服や身に着けるものが、どこか浮いた感じが伝わるからで、それが初々しくもあります。
人生の中で、着る服のタイプが大きく変わるときが何度か訪れます。学生服から私服へ、就職してスーツ姿へ、転職してカジュアルな服へなどと変化があります。場になじめない、しっくりこないというときは、自分を見直すチャンスです。装いから新しい風を吹かせてみましょう。
目からなじませる
着たことのない服に挑戦しなければならないときは、数日前から目に入る場所に吊るし、目から慣らします。なじみのある顔を見るとほっとするように、目になじませておくことで、違和感が軽減されるのです。
それでも新しい服がしっくりこないときは、着慣れたスカーフやインナーを加えると、体が安心し、受け入れやすくなります。
パリコレのモデルたちは、新しい服を、短時間で自分になじませます。サンローランの仮縫いの楽屋では、モデルたちが腰を曲げたり腕を伸ばしたり全身を動かしていました。
「ただ着て慣れるより、飛び、ひねり、曲げることで数段格好よく、素敵な付加価値が出る」
と、舞台プロデューサーが教えてくれました。その際、自然にできたしわのほうが感じ良く、きつい感じのしわは好ましくないのだそうです。また、だらしなさが出やすい服のたるみは締めた場所がきれいに出ていれば、たるみも魅力的に映るといいます。
私たちが服を買うときに、物を拾ったり、つり革を握ったりする動きを加えることで、体になじみやすいかどうかのヒントになるでしょう。
着こなすための工夫
映画監督の伊丹十三さんは、スタジオの片隅にずんどう鍋を持ち込んで、カナダで新しく買ってきたカウチンセーターを煮込んでいました。
「熱を加え縮ませて、自分の体に合わせてるんだ」
さりげない服の着こなしが洒落ていた伊丹さんですが、自分に合わせるために、ひと手間をかけていました。
「似合うっていうのは、なじんでるってこと」
「似合う」を作るには「こなす」が大事で、こなすから似合うのです。
舞台や映画の世界では、演技とともに身につける衣装や小道具が意味を持ち、そのように見せるから役者は助かっています。ただ、それには、こなす必要があり、時間があれば絶えず着たり、手に触ったりして、慣らしているのです。
変化する服の着こなし
ところで、数十年前、渋谷のファッションビルの1階にできた、イッセイ ミヤケデザインの服「プリーツ・プリーズ」の店のディスプレイを見たとき、時代は変わると感じました。それまでの服やドレスといえば、アイロンをピシッと当て、きれいにしわを伸ばしたものばかりでしたが、プリーツ・プリーズの服は、どれもシワシワです。ねじる、丸める、織る、伸ばす、縮ませることで服の形がデザインされ、まるでおもちゃ箱のようでした。
「ポケットに手を入れると凸凹ができて、それがその人のデザインになり、個性になるのです」
体つきや、動き方の癖がその人の個性として服に現れるといいます。
「着たとたんに体になじみ、服があなたのものになるのがイッセイ作品です。どのように着るかでなく、どのように着こなして、なじませるかが大事です」
しわを美しく体になじませて見せるという発想が新鮮でした。
時代とともに、服装は変化します。なじみのないものも、こなすことで、あなたの新たな一面を引き出してくれるでしょう。

どんな服を 掛けますか?© K’s color atelier
今月のレッスン
目で見て、動いて、服をなじませましょう。
(「Are You Happy?」2023年2月号)

岡野宏
1940年、東京都生まれ。テレビ白黒時代よりNHKアート美粧部に在籍。40年以上にわたり、国内外の俳優だけでなく歴代総理、経営者、文化人まで、延べ10万人のメークやイメージづくりを行う。“「顔」はその人を表す名刺であり、また顔とは頭からつま先までである”という考えのもとに行うイメージづくりには定評がある。NHK大河ドラマ、紅白歌合戦等のチーフディレクターを務め、2000年にNHK退所後は、キャスターや政治家、企業向けにイメージアップの研修や講演活動などを国内外で行っている。著書に『一流の顔』(幻冬舎)、『渡る世間は顔しだい』(幻冬舎)、『トップ1%のプロフェッショナルが実践する「見た目」の流儀』(ダイヤモンド社)、『心をつかむ顔力』(PHP研究所)等。












