顔を「0」に戻す
年末年始、本や物を片付けるのに合わせて顔周りも整理整頓してみましょう。
パリでのロケの帰り道、三田佳子さんが高級美容室「0」を発見しました。ジャンヌ・モローに教わった店です。話だけ聞いてみることにしました。
「きれいだけど、どこかおかしい、ちぐはぐな顔になる原因は、時代や体の変化には目をつぶり、同じ顔のまま通そうとするからです」
自分の一番良いときの顔が、頭に残っていると言います。
「ここでは顔を一番美しかったときの『ZÉRO』に戻し、現在の環境に合わせた美しさを提供します」
化粧品の持つイメージは怖いもので、流行りの化粧品は2年もすると時代遅れに感じます。
古い化粧品は古い顔を作り、その人に古い雰囲気がついてしまいます。年に一度くらいは自分の顔と化粧品を見直すことをすすめられました。
古い顔から新しい顔へ
人についたイメージを取るのは難しいものです。しかし、「0」のような店でアドバイスをもらわずとも、ふとしたことがイメージの新陳代謝を促してくれることがあります。
吉永小百合さんが大量の化粧品を袋に詰めて持って来られました。共演する緑魔子さんがのぞきます。
「こんなきれいな色、使ったことないわ」
「いただきものも多いし、気になるものがあるとつい買うでしょ。もう置き場に困ってしまって。使ってくださらない?」
翌日、緑さんは分けてもらった新しい化粧品を使い、さっぱりした素塗り風の顔で現れました。その姿を見た役作りに厳しい作家の早坂暁さんが言いました。
「それでいきましょう」
今までの、どろどろした彼女のイメージから、かわいさの混じった大人の雰囲気に変わっていたのです。緑さんは新しい化粧品に出合い、今までとは違う新しい顔を見つけました。
これからをイメージする
国文学者の金田一晴彦さんは、新番組をきっかけに顔の整理整頓に挑戦されました。番組担当者から「楽しい番組にしたいので、親しみのある明るい感じがほしい」と言われ、相談に来られたのです。当時の金田一さんは、どこから見ても隙のない堅物の学者、といった雰囲気でした。
「人生も半分過ぎ、真面目だけでいいのか、楽しいってどんな風なのか、改めて考えるチャンスなので」
一般社会とのギャップを知ってもらうために、渋谷の駅前のコーヒーショップで打ち合わせをしました。
「みんな勝手な方向に歩いていて、明るくて自由な感じがいいな」
そこで見たイメージを基に、着る物、ヘアースタイルを作ったのですが、金田一さんはなじめませんでした。
「着ていればなじむと言われたけれど無理。気持ちを楽しくする方が先じゃないかな」
そこで、生徒たちと気軽に付き合い、気持ちを素直に出すようにしたところ、気づきがあったそうです。
「学者は目的から少しずれただけで、すぐ修正する癖がある。それが彼らにはおもしろいらしい。ずれが人間味を生み、楽しさの素になるようだね」
鏡の多い部屋での食事にも挑戦してもらいました。新しいスタイルを身に着けた姿を客観的に見ることでイメージができ、受け入れやすくなります。初めは緊張が見えていましたが、2時間ほど経ったころ、しわくちゃな顔をして大笑いされました。
それが心身になじんだ合図です。身振り手振り付きで話す姿は、もう借り物の姿ではありませんでした。
メークやファッションを考えることは、どんな風に生きていくかを整理することでもあります。これからの自分を想像できると、何を捨て、何を足すかが見え、イメージ作りも楽しくなります。想像できない方は、一度頭の中を整理してみましょう。
足すのは簡単 引くことは難しい
今月のレッスン
どんな自分になると楽しいか、その姿をイメージしてみましょう。
(「Are You Happy?」2021年12月号)
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岡野宏
1940年、東京都生まれ。テレビ白黒時代よりNHKアート美粧部に在籍。40年以上にわたり、国内外の俳優だけでなく歴代総理、経営者、文化人まで、延べ10万人のメークやイメージづくりを行う。“「顔」はその人を表す名刺であり、また顔とは頭からつま先までである”という考えのもとに行うイメージづくりには定評がある。NHK大河ドラマ、紅白歌合戦等のチーフディレクターを務め、2000年にNHK退所後は、キャスターや政治家、企業向けにイメージアップの研修や講演活動などを国内外で行っている。著書に『一流の顔』(幻冬舎)、『渡る世間は顔しだい』(幻冬舎)、『トップ1%のプロフェッショナルが実践する「見た目」の流儀』(ダイヤモンド社)、『心をつかむ顔力』(PHP研究所)等。