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男とメーキャップ〔岡野宏のビューティーレッスン〕

身分を示す男性のメーク

歴史を振り返ってみると、いつの世も男性は身だしなみを整え化粧をしている姿が浮かびます。

平安時代、貴族は顔を白く塗り、眉を整え、位や身分を表し、戦国時代、強いものは美しいという考えのもと、大将は戦いの場で首をはねられたときのために眉を描き、紅をつけて香を焚き、江戸時代では、化粧した歌舞伎役者の真似をする者が増え、仕事もせず美しく着飾った若者が街中にあふれて禁止令が出ました。

男性の化粧は格好良く見せるためはもちろんですが、身分を示すためのものでもあったのです。唯一、男性が化粧をしないのは戦時中です。大将などは二等兵等との差をはっきり出すために、ひげを生やしていますが、統率力を出すために、身だしなみを整えるのすら女々しいという雰囲気を軍隊が作りました。その名残りから、戦争が終わっても男性が見た目にこだわるのは女々しいという風潮が続きます。

一票に響く見た目

男性が再びメークに興味を示すようになったきっかけのひとつは、昭和初期にテレビ放送が始まったことで、中でも政治家の男性はメークに興味津々でした。

米国と初めて衛星生中継がつながるという日、日米両国の政治家が電波を通じて話すことになっていました。放送開始前、モニターでアメリカのスタジオの様子を見た日本の政治家たちがざわつきました。そこにはスーツ姿の胸元にタオルを巻いて、化粧パフで顔をたたかれている政治家たちの姿が映っていたのです。

ちょうど、日本でも選挙放送が始まり、外見の感じの良さが票の増減に影響することを実感していたときでもあります。米国のテレビ出演の経験を持つ橋本龍太郎元総理によると、米国では政治家がテレビ出演時にメークをすることは当たり前で、目の下の隈(くま)や頬の膨らみ、シミ、たるみをどうするなど、女優よりうるさかったのだそうです。

選挙放送が始まってからというもの、各党から講師の依頼を受けるようになり、メーク方法はもちろん、感じの良い服の選び方や立ち居振る舞いまで勉強会を開きました。すると、男のおしゃれに苦言を呈していた政治家や、自身もテレビ出演するようになった評論家たちの語調が次第に弱くなっていきました。

男性の良きアドバイザーに

さて、男性は、外見について女性からのアドバイスにノーと言えません。ネクタイ売り場に女性販売員が配置されるのはそのためです。ですから、女性は、身近にいる身だしなみや服のコーディネートに悩む男性にアドバイスをしてあげてください。

まずは、相手にその目的を聞きましょう。仕事の業績を上げたいのか、人との関係を良くしたいのか。近ごろはきれいになりたい男性もいます。気をつけたいのは、生まれ持った身体的特徴をけなさないことです。

また、男性には本音と建て前があります。大平正芳元総理がテレビ出演の際、「メークはしなくてよい」と言って個室に入られましたが、すぐに呼び出され、「皆の前では、恥ずかしいではないですか」とおっしゃられメークをすることになりました。あからさまには嫌だけれど、少しは良く見せたい願望は誰にでもあるのです。

男性も肌を清潔に

男性も女性と同様、まずは、美しく肌を整えることから始めましょう。清潔でほどよい湿度のある肌は、目的、場所、相手を問わず、好印象を与えます。

戦後の第一次男性美容ブームは前回の東京オリンピックで、多人種の来日に刺激される中、多くの基礎化粧品のCMが雑誌やテレビで流されました。二〇二〇年の東京オリンピックまで一年を切った今、再び男性化粧品が注目されています。

© K’s color atelier

「男も 見た目が 気になるのです」

今月のレッスン

身近な男性のメークアドバイザーになりましょう。

 (「Are You Happy?」2019年10月号)


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