夫婦問題研究家・離婚カウンセラーとして活躍する夫婦問題の専門家・岡野あつこさんに、出産後の夫婦のすれ違いや変化する夫婦のあり方についてうかがいました。
妊娠・出産は結婚生活のターニングポイント
離婚や夫婦関係の問題について、日々たくさんの方からご相談をいただいていますが、産後すぐに「離婚したいです」と来られる女性も多く、全体の2~3割はいらっしゃる印象です。子供が生まれてから半年や1年という方も含めると、その割合は4割近くに上ります。
女性は妊娠・出産により母性が強まり、夫から子供へと愛情や関心の対象が移りますが、一方で男性は父親としての実感を持つのに、子供が生まれてから半年~1年くらいかかります。男性からすると、産後に妻の意識が急に自分から離れるようで受け入れ難く、そこで浮気をしてしまうケースも多いのです。
一方、女性は子供を産むという結婚生活の一大プロジェクトを自分が担っていることを夫にわかってほしいし、当然わかるべきだと思ってしまいます。
今は子供のころから男女は平等と教わった世代が夫婦となり、結婚後も仕事を続ける女性が多いため、「仕事・家事・育児はふたりで分担する」という考え方が主流です。そのため、「なんで私ばかり子供の面倒を見なくちゃいけないの」「私だって働きたいのに」と不満に思ってしまうんですね。産後は夫婦にとってのターニングポイントといえるでしょう。
熟年離婚の裏にある「産後クライシス」
この「産後クライシス」は子供が生まれた直後だけではなく、後々まで引きずってしまう問題です。お子さんが成人されてから離婚を考え始めた方でも、理由を突き詰めていくと、「妊娠中に何も手伝ってくれなかった」とか、「産後につらかったのにわかってくれなかった」などとおっしゃる方はとても多いのです。一方で、夫側からは「出産以来、妻はいつも子供が一番で私のことは二の次だった」という声も聞きます。
産後に抱いた不満は年月が経つごとに利息のように膨れ上がり、その後の不満と合体してある日爆発します。これが「産後クライシス」の怖さなのです。
男女ともに意識を変えよう
「男は仕事、女は家事・育児」という役割分担がはっきりしていた時代は、家庭での不満やすれ違いがあってもあきらめる人が多く、この問題は表面化していませんでした。男女の働き方や生き方、役割が多様化している現代では、これまでと同じやり方ではうまくいかなくなったということですね。産後のすれ違いで関係に"しこり"を残す夫婦は今後も増え続けると思いますから、男女ともに意識を変えないといけないでしょう。
男性は、仕事だけしていればいいのではなく、出産や育児で負担のかかる妻を精神的に支えてあげる役どころが求められます。女性は「あなたも一緒にやってよ」と何でも押し付けたり、思い通りにいかないことで「こんな夫とは思わなかった」「離婚したい」などと思う前に、まずは結婚した当時の気持ちを思い出して、初心に帰ってみましょう。人の気持ちは変えられませんが、自分の気持ちは変えられます。そして子育ての大変さではなく、子供のかわいいポイントを教えたり、「ちょっとこの子を見ていてくれたら、あなたにおいしい料理が作れるの♥」と伝えるなど、夫が自分から「手伝おう」と思えるような工夫をすることが必要です。
夫に不平不満を抱きながら人生を送っていても、いいことはありません。例えば明日死んでしまうとしたら、「素敵な自分だった。素敵な人生だった」と思いたいですよね。いちばん身近な「夫婦」の間で幸せな関係を築ける人は、社会や組織でも素敵な関係を築くことができ、周りの人に愛される幸せな女性です。幸福な人生のためにも、人間関係の中でいちばん小さな単位である「夫婦」をもう一度見つめ直してみませんか。
(「Are You Happy?」2017年10月号)
岡野あつこ
夫婦問題研究家、離婚カウンセラー。日本家族問題相談連盟理事長。夫の浮気による自身の離婚経験を元に1991年、結婚・離婚・再婚相談事業を開始。3万件以上の夫婦問題の相談に携わる。離婚カウンセラー養成講座開講。rikon.biz