110

おばあちゃんの知恵 ヤングママの知恵(前編)

子育て奥田さん201201月号

電車の中の出来事

 琵琶湖の畔を走る在来線に乗っていたとき、こんな光景に出会いました。

 ある駅で、おじいちゃんとおばあちゃん、孫ふたりと若いママの5人が乗ってきて、隣のボックス席に座りました。会話の様子から、若いママはどうやらお嫁さんのようで、まだ歩けない下の子を抱っこしています。上のお兄ちゃんは3才ぐらいで、おばあちゃんの隣に座るなり、ソワソワきょろきょろし始めました。
「ばあば、あれ、つかまりたい」

 〝あれ〟とは、つり革のことです。するとおばあちゃんは、余裕の笑顔で、当たり前のようにこう言いました。
「あれはな、大きくなって大人になったら、つかまれるんよ」
「ぼく、もう大人やろ?」
「そうか? まだもうちょっと先やな」
「いつ大人になれる?」
「もう何年かしたらな」
「ぼく、待てん!」
「ふふふ、あれは、大人になってから。ほれ、外見てみ。おっきなボーリングのピンが見えてきたで」

 そんなやりとりを、お嫁さんは気にする風でもなく、にこにこしてただ聞いています。ところが、孫に甘いおじいちゃんが辛抱できなくなったのか、「じいじがつかまらせてやろか?」と助け舟を出しました。

 すると、おだやかに孫としゃべっていたばあばが、ちょっとこわい顔でひと言。
「余計なこと言わんでよろしい」

 その様子を見ていた男の子は、黙って窓の外のピンを眺め始めました。

 

人生経験から生まれる余裕

 さすがはおばあちゃん、孫に圧勝です。人生経験を積み重ねて、孫のわがままぐらいではビクともしないだけの心の余裕があります。心の真ん中に心棒(コマなどの回転の中心となる軸)が通っていて、ぶれない。かつ、柔和でしなやか。見習いたいものです。
 一年生ママが同じ状況になったら、どうでしょうか。わが子のわがままに振り回され、右往左往して大混乱になるかもしれませんね。あるいは、「子どもの機嫌を取ってわがままを聞く」という、〝子育ての禁じ手〟を使ってしまうかもしれません。
 ところが、おばあちゃんは、孫を振り回しこそすれ、自分は微動だにしません。大人がこういう態度で接すると、幼児も意外に「あ、ダメなんだ」と納得して、すんなりわがままを引っ込めることができるものです。
 もし、ご自身が同じ状況になったら、心の中で自分につぶやいてみてください。「これまで○十年、良識や善悪をわきまえて生きてきた大人の私が、たった3才の子どもに振り回されてどうするの、しっかりしなさい!」と。
 それにしても、電車の中のお嫁さんはたいしたものです。お子さんはきっと、豊かな社会性を身につけながら育っていくことでしょう。

(2012年1月号「子育て110番」)

印刷する

奥田敬子 

早稲田大学第一文学部哲学科卒業。現在、幼児教室エンゼルプランVで1~6歳の幼児を指導。毎クラス15分間の親向け「天使をはぐくむ子育て教室」が好評。一男一女の母。

 

連載