近年、増加傾向にある相続トラブル。終活カウンセラー協会代表理事として、終活のさまざまなお悩み解決に奔走してきた武藤頼胡さんに、“争続〟を未然に防ぐ方法について聞きました。
Point 1 相続トラブルのいちばんの原因は家族のコミュニケーション不足
現在、家庭裁判所に相続の相談に訪れるご家庭は7件に1件に上ると言われるほど、相続トラブルは身近な問題になっています。「うちには財産がないから大丈夫」と思っている方も多いのですが、実は裁判の7割は5千万円以下、うち3割が1千万円以下の遺産額をめぐって起きており、どの家庭も他人事ではありません。ではなぜ、相続トラブルが起きるのでしょうか。「不動産だけが残って分配できない」「相続人が多い」など〝争続〞になりやすいパターンもありますが、私は「家族同士のコミュニケーション不足」が相続トラブルのいちばんの原因ではないかと思っています。実際にもめている現場に立ち合う機会もありますが、多くの場合、お金の問題ではなく、過去のわだかまりによる感情のもつれが原因となっていて、「一円でも多く取ってやる」と意地になって争っているケースがほとんどです。
「うちはきょうだい仲が良いから大丈夫」と思っていても、扇の要の親がいなくなった後のことは、誰にも分からないものです。また、相続の時期の、相続人の配偶者の有無や子供の数、進学時期などによって経済状況は変化しますから、当然主張も変わってきます。
相続を争続にしないためには、毎年家族で集まって近況を報告し合ったり、自分の死後のことを普段から子供たちに話しておくなど、こまめなコミュニケーションを心がけましょう。
Muto’s Advice 家族で集まって話し合う機会をつくりましょう。
Point 2 死後、遺族がもめないための遺言書の書き方
「遺言」とは、自分の思いを残す「遺書」とは違い、法的効力のある正式な文書です。遺言には、大きく「自筆証書遺言」と、公証役場で公証人に作ってもらう「公正証書遺言」があります。相続時の状況を想定して、遺言書の種類を選びましょう。
また、相続の割合が不公平になっても、「なぜそう分けたのか」をしっかり伝えれば争続を避けられる場合もあります。遺言書にも付言事項はつけられますが、公正証書遺言の場合、遺言の長さによって支払う金額が変わるので、自分の気持ちはエンディングノートなどに書いておくとよいでしょう。
具体的に相続の内容を考える際は、法定相続人(*1)が持つ権利である遺留分(*2)をふまえた上で考えることが大切です。とはいえ、何が争続の火種になるかの見極めは難しいため、費用がかかっても、専門家に相談することをおすすめします。
(*1)法によって定められた相続人のことで、「配偶者」→「子供」→「親」→「兄弟姉妹」と相続の優先順位が決まっています。
(*2)兄弟姉妹以外の法定相続人に保証されている最低限の遺産取得分のこと。遺言があっても、遺留分は請求できます。
Muto’s Advice 遺言書は、法的効力のある文書。不備のないよう、専門家に相談しましょう。
Point 3 生前贈与のメリット注意点
生きているうちに財産を贈与する「生前贈与」によって相続トラブルを回避するという選択肢もあります。生前贈与には、結婚や子育て、住宅の援助など、用途と額によっては贈与税がかからない制度があり、節税対策としてもよく知られます。また、目的を持った贈与ができたり、生きているうちに世代を超えて何度も渡せることも大きなメリットの一つです。
しかし、実はかえってトラブルの種になってしまうケースもあるため、生前贈与の際には注意が必要です。遺言を残さなかった場合、死後、相続の際に、生前贈与した分がさかのぼって相続分とみなされ、贈与分を差し引かれてしまう場合があります。ですから、生前贈与と遺言書はセットで考えて準備し、自分の意図をしっかり伝えることが大切です。
また、見落とされがちですが、贈与の際には相手の同意が必要ですので、事前に合意をとっておきましょう。
Muto’s Advice 生前贈与は遺言書とセットで考えましょう。
トラブルを未然に防ぐための 相続の基本知識Q&A
相続についてよくある疑問に、武藤頼胡さんが答えてくれました。
借金(ローン等)
Question 死後、未払いのローンが残っていたら?
A まずは、ローンの契約内容を確認しましょう。
借金も相続の対象になりますが、3カ月以内に相続放棄の手続きをすれば、ローンも含めたすべての相続を放棄することができます。ただ、借金の契約によっては本人の死後に負債がなくなるものもあるので、まずは契約内容を確認してみましょう。家のローンであれば、売却することで相殺されたり、逆に手元に現金が残る可能性も。ともあれ、死後、遺族に迷惑をかけないためにも、ローンの詳細を書き残しておくことが大切です。また、亡くなった人の借金を3カ月以内に把握することが難しい場合は、家庭裁判所で延期の手続きをすれば、相続放棄するかどうかの判断を待ってもらうこともできます。
不動産
Question 不動産を相続するときに気をつけることは?
A 争続や空き家問題に発展させないための対策を。
不動産の相続は、「共同名義にしない」ことが基本です。なぜなら、一方が「現金」を、もう一方が「そのまま住むこと」を望んだ場合、売却する・しないで争続になるケースが非常に多いからです。また、今自分が所有している不動産が共同名義になっている場合、買い取るなどして、早めに名義変更を。最近は、相続人全員が要らないという不動産が放置され、空き家になるケースが増えています。今持っている不動産が自分にとっても相続人にとっても不要なら、アパートや介護施設に引っ越して売却するという選択肢も。ライフプランをしっかり考えた上で、不動産の処分や引き継ぎを考えてみましょう。
認知症
Question 認知症になったら、相続の手続きはどうなりますか?
A 成年後見人制度や家族信託を利用できます。
認知症になった場合、裁判所で後見人を決めてもらう成年後見人制度や、家族信託の制度などが利用できます。ただ、自分が希望する後見人や遺言執行人を立てておく、遺言書を書くなど対策はたくさんあるので、元気なうちから相続対策を考えておくことが大切です。逆に子供から見て、親に認知症が疑われるような場合、急いで遺言書を書かせたとしても、いざ相続になったときにもめることもあるので注意が必要です。「親に相続の話はしにくい」という方は、まずご自身が終活を実践してみてはいかがでしょう。親に終活の話をしやすくなり、一緒に終活を進めることができるかもしれません。
成年後見人制度…認知症などにより、判断能力が低下した場合、第三者に判断を代行してもらうことができる制度のこと。
家族信託…信頼できる家族に不動産・預貯金等の資産の管理・処分を任せることができる制度のこと。
おひとりさま
Question 相続人がいない場合、遺産はどうなりますか?
A 何もしなければ遺産は国のものになります。
自分の相続人にあたる人がいない場合、特に相続の手続きをしなければ財産は国庫に帰属されます。ただ、「特定の団体や友人・知人に自分の財産を譲りたい」という場合は、生前に公正証書遺言を作り、遺言執行人を立てれば、相続や遺贈について自由に行うことができます。自分のライフプランを立てながら、死後の財産を何に役立てたいかを考えてみましょう。葬儀や納骨先などについては、生前に契約をしておくことで代行してくれるお寺や葬儀業者も。また、市区町村によっては、おひとりさまの終活に関する相談窓口が設けられているところもあるので、相談してみるとよいでしょう。
遺贈寄付
Question 家族への相続だけでなく、遺贈もしたいのですが……
A 遺留分と相続のバランスを考えましょう。
相続という選択肢以外にも、死後、自分の支援したい団体に財産を寄付する「遺贈」を通じて、社会貢献をしたいという方もいるでしょう。亡くなった方の意志を尊重する意味で、公益財団法人などへの遺贈寄付は課税の対象外となっていることが多いです。ただ、法定相続人が相続額に不服を申し立てた場合、遺留分を請求することもできます。円満な相続のためには、遺贈の詳細について家族に伝え、同意を得た上で、遺言書にもその旨を記載しておくことが大切です。また、遺族の経済状況や気持ちに配慮した上で、相続と遺贈の金額のバランスを考えるなど、争いの種を残さないよう対策を立てておきましょう。
婚外子
Question 内縁の妻との子供に相続はできないのですか?
A 婚外子を認知する必要があります。
婚外子への相続は可能ですが、その場合、認知をする必要があります。遺言書には身分関係を記入する欄もあるので、遺言書で認知することも可能です。ただ、ご家族が遺言書を見て初めて婚外子の存在を知った場合、婚外子への相続に否定的な気持ちになり、相続争いに発展してしまうことも。たとえ言いにくいことであっても、生前に認知を行い、家族にも自分の意志を伝えておくことです。残される子供に罪はないので、もめごとを後回しにすることは避けましょう。また、再婚相手の子供に相続を考えている場合は、生前に養子縁組が成立しているかどうかを確認しておくことをおすすめします。
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