賢い生前整理術-整理収納コンサルタント 戸田里江さん

整理収納コンサルタントとして、多くのシニア層の生前整理の悩みに応えてきた戸田里江さんに、身も心も軽くなる生前整理のメソッドについてうかがいました。

次の世代のために生前整理を

私はもともと、住宅メーカーでリフォームの営業をしていたのですが、工事をして家がきれいになっても、〝リバウンド”して部屋が散らかってしまうお客さまをたくさん見てきました。ご高齢の方は、物がない戦後を生きた経験から、物を溜め込みがちです。「このままでは、物を遺された次の世代が苦労するかもしれない」と思い、生前整理収納コンサルタントとして活動するようになりました。

断捨離は、今現在を生きている人が、より快適に暮らすために行うものですが、生前整理は、さらに「次の世代のために行う」という視点が加わります。家がぐちゃぐちゃのまま突然亡くなってしまうと、それを片付けなくてはならないのは子供たちです。子供に迷惑をかけない、負の遺産を遺さないために行うのが生前整理です。

年を重ねていくと、どうしても体は衰えていきます。一軒家の2階がほぼ納戸状態になっていて、もう何年も階段を上がっていないという方もいらっしゃいますし、たくさん物を取っておいても、それを使うエネルギーがなくなるのです。生前整理で物を減らすと、毎日の掃除が快適になったり、動線が確保されて安全に生活できるようになるという利点もあります。

捨てることで運気が循環する

ご高齢の方の一軒家を片付けた場合、平均、ダンボール箱約300個前後の不用品が出ます。物を捨てていると、不思議なことに、人によっては〝プチ不幸〞が起こることもあるんです。しかし「ベッドを勧められていたのに、ずっと布団を使っていたおばあちゃんが、趣味の登山で骨折をして布団の出し入れができなくなり、ベッドを買ったら生活が快適になった」「息子が就職試験に落ちたけれど、別の良い就職先が決まった」など結果的に良いことも起こるので、プチ不幸は次の新しいステージに上がる準備だと思います。いらないものを捨ててスッキリすると、運気が循環し、良いエネルギーが入ってくるのではないでしょうか。
私たちが生前整理をする場合、「ゴール設定」「見える化」「分類」「廃棄・収納」という手順で片付けていきます。次のページでは、具体的な手順についてご紹介します。

4ステップで生前整理に挑戦!

どこから手をつけていいのか分からない方のために、今日からできる簡単な生前整理の手順をご紹介します。

Step1 ゴール設定  これからどんな生活を送りたいか決める

まずは「これから先、どんな生活を送りたいのか」を想定して段取りを組むことが大切です。「子供たちと同居する」「一人でシンプルな生活をする」「将来的にはどこかの施設に入る」など、どんな生活を送りたいかの「人生設計」を明確にしていると、物の要・不要が判別しやすくなります。

Step2 見える化 収納しているものを全部出してみる

収納しているものをすべて取り出して見やすいように並べます。普段あまり使っていない部屋から始めましょう。家に何をしまっているのかを「見える化」し、「普段使っているかどうか」を確認していくと、意外なほど多くの死蔵品(しまったまま取り出されないもの)があることに気がつきます。

Step3 分類 いるもの、いらないものに仕分ける

取り出して「見える化」したものを、「いるもの」と「いらないもの」に分けていきます。しまったときのまま動かしていないものや、2年以上使っていないものは、これからもほぼ使わないと判断したほうがいいでしょう。どうしても判断がつかないものは、「半年後にどうするかもう一度決める」など、期限を書いた紙を箱に貼り、「未決」として置いておきます。

Step4 廃棄・収納 仕分けたものをそれぞれ廃棄or収納する

分類して「いらない」と判断したものは廃棄します。近年は物を買うよりも捨てるほうがお金がかかるようになりつつあるので、リサイクルショップに持ち込んだり、欲しい人にあげたりして、リユースしてもいいでしょう。ジャンル別に収納のポイントをご紹介します。


書類

以前、有名建築家にデザインしてもらったというお宅を片付けたのですが、すべての収納が引き出しになっていて、見た目は良くても書類を取り出すのが面倒になっていました。書類は、用途ごとにファイリングして、ファイルボックスなどに立てておくと整理しやすいです。しばらく使っていない書類は、期限を決めて廃棄しましょう。

食器

収納セミナー参加者には、「帰ったらまず箸箱を整理してください」という宿題をよく出します。箸箱をすべて出してみると、使っていない箸が入っていることも多く、すぐ片づけられるため、取りかかりやすい場所なのです。食器棚は、動線を考え、普段使う食器は手の届きやすい場所に、来客用の食器は高い場所にしまうなど、頻度によって収納場所を変えましょう。

洋服

衣類や靴、鞄などは、すべて取り出してみると、しばらく着ていないものがあったり、似たようなものを買ったりしているのが分かります。衣類は生活していくなかで増えていくものなので、クローゼットには定数しか置かないようにし、「一つ買ったら、一つ捨てる」と決めて管理しましょう。


戸田さんに聞く 生前整理Q&A

高齢者だけではなく、幅広い世代の方が持つ4つの“捨てられない”お悩みについて戸田さんに答えていただきました。

Q 生前整理をしてもまた物が増えてしまいます

A 「買い物依存症」になっている可能性も

以前、80代のご夫婦の部屋を片付けた際、部屋から大量に新品の雑貨や小物が出てきたことがありました。旦那さまは要介護状態で、近くに住んでいる身内ともほとんど交流がなく、奥さまが寂しさから「買い物依存症」になっていたのです。ご高齢の方が施設に入所するための生前整理の依頼を受けても、お子さんが手伝いに来るのは引っ越し当日だけという場合も多く、家族関係が希薄になっているのを感じます。心にぽっかりと空いた穴を物を買って埋めようとしても、埋めることはできません。「物を一つ増やしたら、一つ減らす」という生活を心がけ、改善されないようならカウンセリング等で相談しましょう。

Q 生前整理を始めるタイミングは?

A ライフサイクルが変わるときがチャンスです

「生前整理」と言うと、人生の最期に行うというイメージを持つ方も多いのですが、家の片付けは体力が衰えるほど難しくなります。本来なら、50~60代のうちに始めておくのがベストです。「子供が家を出た」「夫が定年退職した」「引っ越しをする」など、大きくライフサイクルが変わるタイミングで家を整理し、その後は捨てながら生活することを心がけましょう。時間・体力的に整理が難しい場合は、プロに相談するとよいでしょう。ライフサイクルが変わるときがチャンスです。

Q いただきものや思い出の品がもったいなくて捨てられません……

A しまいっぱなしのほうがもったいないかも

片付けにうかがった際、よく押入れの奥からカビたり、黒ずんだりして使えなくなったいただきもののタオルや小物が出てきます。使わずにしまったままにしておくよりも、使わないようなら、リサイクルショップに出して人に使ってもらうほうが、「物を大切にする」ことになるのではないでしょうか。物を仕分けて処分することで、そこに込められた感情や思い出に片を付けていくことも、生前整理です。もちろん、子供からの贈り物など、良い思い出が詰まったものは無理に捨てる必要はありません。

Q 親に実家の整理をしてほしいのですが、してくれなくて困っています

A 焦りは禁物、時間をかけて話を聞きましょう

「実家の片付け」は、50~60代の方からよく聞く悩みです。焦って物を捨てさせようとすると、頑なに物を捨てなくなってしまうので要注意。人はきっかけがないと片付けには踏み切れません。引っ越しや体調の変化など、人生の転機に一気に片付けるか、「お母さん、これにはどんな思い出があるの?」と物に込められた気持ちをじっくりと聞いて、心の整理をしてあげながら根気強く片付けていきます。「捨てる」ことに抵抗がある人も「あげる」と聞くと心が動くことがあるので、上手にリユースを提案してみましょう。

(Are You Happy? 2020年1月号)

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