季節の変化をキャッチする
旅先で、すすき野原に刈田、木の葉わらや葺ふき屋根の色が目に留まりました。初秋の成熟した色とはまた違う、なんと心が落ち着く優しい色合いなのでしょう。
おしゃれは自然から学ぶところが多く、四季のある日本は幅広く楽しめます。季節の変化をどこで感じるかは人それぞれです。
「先週まで白桃が並んでいた場所にシャインマスカットが取って代わったとき」、「夕方の電車から見える街並みに、かすみがかかったとき」という人もいれば、「カーディガン売り場が広くなった」という方もいました。その感じ方が個性につながります。
秋色を足し、夏の要素を引く
季節の変化を感じたら、それをメークや服に表してみます。秋なら紅葉が少しずつ山から下りてくるようなイメージで、黄色や茶色、紅葉色や夕焼け色など、ベルトや靴、バッグ、マニキュアといった小さな面積から取り入れます。
メークもまずアイシャドウ、次にチークというようにし、「あら、あなた、いつのまにか秋色になっているわね」というぐらいにすると、失敗がなく取り入れられます。
ヘアーカラーをアッシュ系やオレンジブラウン系にすれば、ほかに何も変えずとも、もう秋の雰囲気です。
「光」は夏のものですから艶を抑えめにし、スモーキーな雰囲気のヘアーにすると、一層秋の雰囲気が深まります。艶を控えめにするには、油性の少ないリンス、トリートメントを使い、ドライヤーをかけず、自然乾燥で仕上げます。
このとき大事なのは、肌の質感を整えて完璧に美しくあることです。ファンデーションや口紅もマット系のものにすると、秋のおしゃれに深みが出ます。
秋からは重厚感を足していく
着るものは、形と素材で少しずつ重厚感を増していくように見せましょう。
サンローランのショーのためにフランスから来日したモデルたちは、小寒い日に、夏の素材のブラウスや半袖Tシャツを着て、肩からは厚手のカーディガンや長袖の羽織物をかけていました。素材のコントラストが中途半端な季節に、格好よく映ったものです。
初春の防寒スカーフは、軽く透け感のある素材でしたが、初秋は薄手のカシミヤや少し重さを感じる素材のものにし重みを加えます。
夏服に足元だけ先行して、秋色のタイツやブーツを合わせて重厚感を加えるのもしゃれています。
季節遅れは、それも味
(皆が秋服に着替えたからそろそろと自分も)と、後から続く人は、おしゃれの世界では野暮ったくてあか抜けないものです。そんな人は仕事の場でも、とろい人に思われがちです。
でも、私は季節遅れの人を嫌いではありません。ゆったり感が温かさを感じさせ、ボケ感が人柄の良さを見せるので好きなのです。
どうしても季節が追えず、取り入れるのが遅くなる人は、柔らかいカーディガン、スカーフを絶えず持ち、足したり、引いたりコントロールすると良いでしょう。このとき大事なのは、本物(合成繊維ではなく天然素材)が良く、シルクのジョーゼットや薄いカシミヤのカーディガン、特に素敵に見えるのが四季に使える薄いカシミヤの大判のストールで、モデルたちが夏でも、冬でも必ず持っている大事な隠しものです。
なぜ本物が良いかというと、人は先端や添え物などのポイントに目が行きます。そこに本物を使っていれば、全体が良い印象に引っ張られるからで、その逆もしかりです。
日常の中の季節の変化に目や耳を寄せ、肌で感じてみてください。季節と一体になったおしゃれは、人にも自分にも心地良いものです。

秋色を見つけに 出かけよう© K’s color atelier
今月のレッスン
秋を感じたら、光を引き、重厚感を加えましょう。
(「Are You Happy?」2022年10月号)

岡野宏
1940年、東京都生まれ。テレビ白黒時代よりNHKアート美粧部に在籍。40年以上にわたり、国内外の俳優だけでなく歴代総理、経営者、文化人まで、延べ10万人のメークやイメージづくりを行う。“「顔」はその人を表す名刺であり、また顔とは頭からつま先までである”という考えのもとに行うイメージづくりには定評がある。NHK大河ドラマ、紅白歌合戦等のチーフディレクターを務め、2000年にNHK退所後は、キャスターや政治家、企業向けにイメージアップの研修や講演活動などを国内外で行っている。著書に『一流の顔』(幻冬舎)、『渡る世間は顔しだい』(幻冬舎)、『トップ1%のプロフェッショナルが実践する「見た目」の流儀』(ダイヤモンド社)、『心をつかむ顔力』(PHP研究所)等。