幽体離脱の記録をひもとく

幽体離脱については、歴史のなかでさまざまな人物がその体験を記録に残しています。
現象の特徴ごとにその記録をひもといてみましょう。

臨死体験

生死の境をさまよう状態のときに、魂が体から抜け出して周囲の様子を見たり、あの世を垣間見たりする体験のこと。歴史に名前が遺る人以外の市井(しせい)の人でも経験しており、研究者などが文献に残しています。

存在さえ知らなかった兄に霊界で会った

アメリカで活躍した精神科医エリザベス・キューブラー・ロスは、膨大な臨死体験の事例を集めました。危篤に陥り3時間半後に息を吹き返した女性は、蘇生チームの動きや会話、考えていたことをすべて再現できたといいます。12歳の少女は臨死体験のなかで、自分が生まれる前に亡くなって存在さえも知らなった自分の兄に会っています。日本では、『遠野物語』に、熱病にかかった松之丞(まつのじょう)という人が臨死体験をした記録があります。「ふわりと空中に飛びあがり、前さがりに滑空した」「自分の名前を呼ぶ声がして引き返すと意識が戻った」など、近年報告されている多くの臨死体験と共通する描写が残っているのです。

脳が機能停止した状態での鮮明な記憶

脳神経外科医のエベン・アレグザンダー氏は、もともと臨死体験などの不思議な現象は、すべて脳の働きによるものだと考えていた人物。ところが自身が臨死体験をし、しかもそれが脳の新皮質が機能停止した状態での経験だったことで、考えが一変したことを語っています。また、分析心理学を創始したユングも臨死体験を経験しています。ユングが心筋梗塞と骨折で入院中に血栓症を起こして危篤に陥ったとき、宇宙空間から地球を見下ろすビジョンに続き、主治医の死を予感するビジョンを見ました。その後、ユングが回復してベッドに腰掛けられるようになったころに、主治医は帰らぬ人となったといいます。

霊界探訪

歴史上でも稀なことではあるものの、死に瀕していない状況で霊界を訪れ、その様子を報告したり、すでに亡くなった人からの伝言を伝えたという記録も残っています。

女王を驚かせたスウェーデンボルグの伝言

霊界探訪の記録で有名なのは、18世紀に活躍したスウェーデンボルグです。科学者としても業績を出しながら、霊界について数多く語りました。スウェーデンボルグはあるとき、スウェーデンの女王に「死んだ兄に会ってほしい」と頼まれます。しばらく経って、「最後にくれた手紙に返事を出さなくて申し訳ない」というお兄さんからの伝言を女王に伝えると、「そんな秘密は神様以外、誰も知らないはずなのに」と仰天したといいます。ほかにも、重要な書類の在りかを故人に聞いて見つけ、未亡人を救ったこともありました。

遠隔透視

遠隔透視は、直接見えるはずのない遠方のものを見ることで、一種の幽体離脱とも言えます。釈尊など高度な悟りを得た人以外にも、数は多くないですが、経験したという記録が残っています。

虫や小鳥の窮地を遠隔透視で救った明恵

遠隔透視では、日本の鎌倉時代の高僧・明恵(みょうえ)が有名です。「手洗い桶に虫が落ちた」「竹藪で小鳥が蹴られている」「湯屋の軒の雀の巣に蛇が入った」など、明恵が遠隔透視して弟子たちに助けるよう命じ、弟子たちが行ってみると、そのとおりの状況だったことが何度もありました。スウェーデンボルグも、ストックホルムから何百キロも離れた街で、ストックホルムで起きている火事を透視したことがあります。電話も無線もない時代、翌日になって伝わってきた実際の火事の様子との一致に人々は驚きました。

守護霊との対話

人間には一人ひとりに守護霊がついています。夢や瞑想のなかで、守護霊やより見識の高い指導霊と対話をすることも幽体離脱の一種です。

夢のなかで自分が知らないことを教わる

明恵は40年近くの夢の記録とその解釈を残しています。入山してすぐのころ、仏典の分からないところを当時の碩学(せきがく)の僧に聞いたところ、その僧も答えられなかったことがありました。するとその夜、夢に梵僧(インドの僧)が現われ、一つひとつ解き明かしてくれたという記録があるのです。ユングも夢の記録を絵と共に残しており、そのなかには「老賢者フィレモン」との対話が記されています。ユングはフィレモンによって、「自我より高いもの」が存在することを体験したと語っています。

(「Are You Happy?」2023年2月号)

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タイトル

小説 揺らぎ

小説 揺らぎ

「それがまた始まった。いつも決って、午前三時だ。」

ああ、信じられない――
ページをめくるたび、あなたは何度もそう呟く。

SFなのか? ホラーなのか?
これは、スリルとサスペンスに満ちた、私たちを未体験の領域へと誘うマルチバース・ストーリー。
この一冊が、異世界への“特異点”となる。