無難になっていませんか?
おしゃれの敵は思い込みです。あれは似合わない、これは私向きではない。そんな思い込みが、年とともに積み重なっていきます。経験から自分に似合う枠、このヘアースタイルなら似合う、この色の化粧品なら間違いない。
そういった〝この中にいれば大丈夫〞という安全な枠を持っている方もいるでしょう。
ところが、安全圏だと思っていた枠組みも、年齢や体型、時代の流れや居場所の変化によって、無難でつまらないもの、古いものに変わっていきます。そんな枠を壊し、超えるきっかけを与えてくれるのが〝失敗すること〞です。
失敗はチャンス
芸能界で長く息の続く人は、失敗した出来事があると、自分を見直す良いタイミングと捉えます。
喜劇役者のチャーリー・チャップリンは二枚目の役者を目指していたのですが、勝負をかけた映画オーディションで、緊張から足がもつれ、よたってしまう失態を犯しました。その姿を見た審査員が言いました。
「背は高くないし、しかも仕草がちょっと滑稽でかわいらしい。だから美男子路線はやめたほうがいい。君の良さは哀愁のあるところだよ」
その出来事をきっかけに、試行錯誤をし、三枚目の道を受け入れ生まれたのが、大きい靴に小さめの燕尾服でよちよち歩く、皆さんが知っているチャップリンの姿です。
伸びていく方は、失敗したとき、自分の姿を直視し解決策を探ります。それはひと段階上に上がれるチャンスだからです。
思い込みの強い顔周り
さて、自信のない部分、特に顔周りに対する思い込みは激しいものです。皆さんも、失敗しないよう顔周りのおしゃれには、特に気を遣われているのではないでしょうか? しかし、それゆえ、思い込みから抜け出しにくいのも顔周りです。デビュー当時の桃井かおりさんは、健康優良児的な丸顔が嫌でたまらず、撮影の途中、「頬が映った」という本人からのダメ出しで撮り直したこともありました。
そんなある日、河原でのロケーションで、河風が吹き、桃井さんの頬が丸出しになったのです。
日没直前、このシーンで最後、撮り直しができない状態でした。
「失敗した」と慌てるスタッフをよそに、桃井さんは画面を確認すると、「お疲れさま」と声をかけ、その場を去ったのでした。
翌日、メーク室で、「昨日の桃井さんの顔、思ったより感じ良かったじゃない」という話になり、それを聞いていた桃井さんが言いました。
「ありがとうございます。何だか吹っ切れたみたい。風が吹いてくれて良かった」
後に、彼女はそのときの心境を話してくれました。
「演技にも、見てくれにも、少し自信が出てきた時期で、それをあの画面が教えてくれたみたい」
失敗したら楽しもう
失敗は、いつもとは違う視点から自分を見せてくれます。ですから大失敗なくらいのほうが新しい風が吹きやすく、そのときはチャンスと思いましょう。私たちが冒険心や好奇心を持つ人に惹かれるのは、彼らが失敗を恐れず思い込みの枠を超えて、いつでも新鮮な風を吹かせているからではないでしょうか。
2021年末、話題をさらった日本ハムの新庄監督の記者会見ですが、あの極端に高さのあるシャツの襟は、仕立屋が寸を間違えたのだそうです。それを、話題をさらう見せ方にできるところが、彼の人気の秘密なのでしょう。
失敗はチャンスです。思い込みの枠からはみ出してみましょう。

立方体 見えますか?
© K’s color atelier
今月のレッスン
おしゃれの失敗は、自分の魅力を見つけるチャンスです。
(「Are You Happy?」2022年4月号)

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岡野宏
1940年、東京都生まれ。テレビ白黒時代よりNHKアート美粧部に在籍。40年以上にわたり、国内外の俳優だけでなく歴代総理、経営者、文化人まで、延べ10万人のメークやイメージづくりを行う。“「顔」はその人を表す名刺であり、また顔とは頭からつま先までである”という考えのもとに行うイメージづくりには定評がある。NHK大河ドラマ、紅白歌合戦等のチーフディレクターを務め、2000年にNHK退所後は、キャスターや政治家、企業向けにイメージアップの研修や講演活動などを国内外で行っている。著書に『一流の顔』(幻冬舎)、『渡る世間は顔しだい』(幻冬舎)、『トップ1%のプロフェッショナルが実践する「見た目」の流儀』(ダイヤモンド社)、『心をつかむ顔力』(PHP研究所)等。