やがて失われる若さ
誰でも若いときは、きらきらと輝き、人を引き寄せ、ちやほやされます。日本人は若さへの執着が強く、その分老いていく姿を受け入れ難いようです。
しかし、いつか若さという魅力は弱まり、そのことに気づかず、また気づいても目を背けて過ごしていると、人間的魅力すらなくしてしまうことがあります。さて、失いつつある若さの穴埋めを何でしますか?
若作りで若さを保つ
「外見によって人は変わります」という私の考えに賛同してくれた人に、HONDAの創業者、本田宗一郎さんがいます。本田さんが取材記者とともに、洋服屋に出かけたときのことです。
60歳を超えた彼が若い人向けのアメリカンカジュアルばかりを選ぶ姿に、取材記者はあっけに取られました。
「爺がよくもそんな若者の服ばかりを、と思っていませんか?」
会社の人集めの宣伝のため、若者と同じ格好をしているのだと言います。でも、その本田さんの言葉は建前だと思っています。
別の機会にこんなことを話してくれました。
「風呂で鏡に映った姿を見てがっくりする。でも、落ち込んだ後は若い格好をした自分の姿を鏡で見て、若い気持ちを保つようにしている」
若作りはやりすぎに注意
本田さんはご自身を「目から入るものを素直に信じるタイプ」だと言いました。人は若々しい格好をした自分を見ると、身体を軽く感じ、気持ちも若くなります。一方、「草むしり用に昔ながらの老けた服を着ると、足も重く動作も鈍くなる」とも言います。ですから、若い格好をして若さを補うことは決して悪趣味なことではなく、心身を若く保つ、良い方法ではないでしょうか。
若作りのコツは、やりすぎないことです。ファンデーションを厚くしすぎない。色をたくさん使いすぎない。服のデザインを凝りすぎない。光物を付けすぎない。大人の経験からその尺度を計ってみてください。
自分の目だけで不安なときは、他人の目でチェックしてもらうのも良いでしょう。本田さんは時間があるときにバイクにまたがり、ライダースーツ姿で私のもとに現れ、「今日のコーディネートはどうでしょうか」と確認されていました。
失ったときのための準備
「若いというだけで役をもらっていた」と言う昭和の大女優、山田五十鈴さんは、同世代の女優さんがチヤホヤされ遊んでいるとき、鼓(つづみ)、太鼓、三味線を習ったそうです。先輩女優たちが齢(よわい)とともに芸者役に、それが置屋の女将役になり、立ち居振る舞いに色気もなく、三味線も弾けず、芸も未熟で、次々と消えていく様を見てきたそうです。
「そうはなるまいと、指にまめを作って頑張りましたよ」
森光子さんは、料理学校に通ったそうです。
「私、顔が美人系ではないので、主婦や小料理屋の女将さんの役が来るかなと思って。しょせん美しい娘役はすぐ若い子に取って変わられますから」
彼女たちが頑張った話をさらりと話してくれたのは、若いときを過ぎた今が充実していたからです。
若さの穴埋めは、長年の経験と、豊富な情報を持ってできるセンス、優雅な立ち居振る舞いなどで埋めるのが良いでしょう。
付け焼刃の若者にはできない味が出るものです。その素晴しい味は「好きなもの」に携わっていることから生まれることが多く、本田宗一郎さんがバイクに寄り添う姿には、若者には出せないすごみと格好良さがありました。
若さは魅力の一部でしかありません。失われる若さに固執せず、積み重ねてできる魅力にシフトしてみてはいかがでしょうか。
仕草美人 言葉美人 魅力はさまざま
© K’s color atelier
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