あの子は、頑固でも天邪鬼(あまのじゃく)でもなかった……
前回は、素直な心の大切さについてお話ししましたが、このテーマを考えるとき必ず思い出すお子さんがいます。
その子は、私が幼児教室の先生になって間もないころに出会った男の子です。いつも穏やかで、工作や積木が得意で、他の子とは一味違う独創的なものを作って楽しんでいました。「上手にできたねー」と褒めると、うれしそうに静かに微笑むお子さんでした。
ただ時々、先生の言ったことと反対のことをすることがありました。「本を閉じて、お机の中にしまいましょう」と言っても、しまわずに出したままにします。「○○くん、本は閉じて、お机の中にしまうよ」と繰り返しても、手を動かそうとしません。もう一度繰り返して言うと、今度は、にやっと笑ったままフリーズしてしまいます。
そのころ、私はまだ本当に未熟な先生で、「子供は、窮地に陥ったら無表情になったり、笑ったりする」ということさえ知りませんでした。そして、(この子はもしかしたら頑固なのかもしれない。言われたことと反対のことをする天あまの邪じゃく鬼タイプなのかもしれない)と心のどこかで考えていました。
その子がお教室を卒業してしばらく経ったある日、写真データを整理していたら、その子の写真が出てきました。彼は、お日さまのように明るい笑顔で笑い、透き通る瞳でお友だちと会話していました。私は、ぼろぼろと涙がこぼれました。自分は、あの子の何を見ていたんだろう。あの子と心を通わせる努力も、あの子の心に届くような語りかけの工夫もしなかった……。
子どもがビジー状態になったとき
今なら分かります。幼い子供が素直でなく頑固に見えるとき、それは子供の性質の問題というよりも、幼いがゆえに、どうしていいか分からない「困った状態」に陥っているのです。
パソコンは、自分のスペック(性能)では処理が難しい複雑な指示を連続して出されると、ビジー状態(指示に対して応答がない状態)になってしまいます。いわゆる「固まった状態」です。そんな時、みなさんはどうしますか? イラッとして、マウスを何度もクリックして同じ指示を繰り返し、「応答しろ、応答しろ」とパソコンをせっつきませんか? そんなことをすればするほど、パソコンは余計に固まりますよね。それと似ています。
子供が固まったようになって頑固に見えるとき、子供は、次の①~③の状態かもしれません。
①言われている指示の内容が、よく分からなくて困っている。
②言われていることは分かるが、どうすればいいのかが分からず、困っている。
③どうすればいいか分かるが、何かストッパーがかかって動き出せない。
子供が、大人の指示通りに素早く動けなくても、「反抗的だ。素直じゃない」と即断して怒らず、まずは、焦っている自分を止めてください。そして、子供の瞳をのぞきこみ、にっこり笑って、ハグするか、こちょこちょくすぐり、温かい声で「大丈夫かい?」と問いかけてみてあげてください。その上で、何に困っているのかを尋ねたり、一つひとつ丁寧に教えてあげたりしてみてください。そうすれば次からは自己解決できるかもしれません。
(「Are You Happy?」2021年7月号)