光をとらえる
太陽の光が恋しくなる季節です。伊丹十三さんは、ヘルシンキ、ストックホルム、エジンバラと旅する間、太陽の光を拝めず、十何日目かでやっと光が一瞬雲間より出たとき、神が降りてくるような錯覚に陥ったそうです。
光はものを美しく見せます。人を美しく見せるのも、そうでないのも光の加減ひとつです。ですからバレンタインになると、べテラン女優が〝いの一番〞にチョコを渡す相手は照明さんなのです。
光は命を吹き込む
世界最高の美しい肌色を作るといわれるNHKのテレビですが、それを作り出すためにしていることが光の調整です。
まず、暗闇に立つ姿の見えない人影に少しずつ光を当てると、形がぼんやり浮き上がります。それが少女だと分かるぐらいまで明るくなると肌色が出始め、色がはっきり認識できたところで、メイクを施し色に濃淡を作れば、顔の凹凸がはっきりします。まだ、この段階では人は彫刻のようです。そして、最後に少女の頬に少量のパウダーやクリームを乗せると、それが光をとらえ、命が吹きこまれたかのように顔が生き生きします。光が命を与えるのです。
微粒子のパウダーを選ぶ
光を受けた顔は、年齢に関係なく皆美しく見えます。しかし、歳とともに肌に張りがなくなると、反射する力が弱まります。それを助けてくれるのがパウダーやクリームです。
舞台「女の一生」で、10代から70代を演じた杉村春子さんが使っていたのは、真珠から作られたフィニッシングパウダーで、それを頬に乗せ、光が当たると60代の彼女の肌に10代のような張りが出ました。
「ヨーロッパから取り寄せているの」
そのパウダーは、指揮者のヘルベルト・フォン・カラヤンもお気に入りでした。近頃は、真珠のパウダー以外にも肌を光らせるクリームやパウダーがありますが、大事なのは粉の細かさです。微粒子ほど上品で、大きくなるほどケバケバしく、野暮ったくなります。鼻筋、隈くま、頬に乗せると生き生きした顔になりますが、顔全体を光らせると、顔そのものが腫れたように見えるので避けましょう。
美しく見える照明
パリの5つ星ホテル「リッツ・パリ」のソファーは、低い位置にセカンドライトが設置され、女性を美しく見せる仕掛けとしてご婦人方から喜ばれています。真上から降り注ぐ光は、顔に影を作りシワやたるみを際立たせるのですが、下から照らす光は影を消してくれるので、ほうれい線やシワを消し、若々しく見せてくれます。
ファッションショーのランウェイを見ていると、下からの照明に照らされる位置を取るのは、ベテランと売れっ子モデルです。新人は隙を見てそこに入り込もうとします。その光の大事さが分かる人から売れていくと言っても過言ではありません。
心に溶けやすい光と影
さて、伊丹さんとの光の話には続きがあります。
「美しさは光だけでも演出できるが、安っぽくて心に響かない。影があっての光であり、光が美しく神々しく見えるには影が大事。宗教画のエル・グレコやレンブラント、フェルメールも光を見せるための影が美しい」
私たちの顔も光と影のバランスがいいときれいに見えます。顔全体に光るものを塗ると野暮ったく見えるのは、影がなくなるからで、光と影の美しさは対を成しているのです。
光を意識したら、同時に影にも心を配りましょう。朝焼け、夕焼けを好きな人が多いのは、光と影の両方の美しさが心に溶けるからではないでしょうか。雲が厚いこの季節、光と影への感度を高めるにはよい季節かもしれません。
© K’s color atelier
冬景色に合う やわらかな光は 微粒子パウダーで
今月のレッスン
人に対応するときに、顎を上げ気味にし、顔を光に向けると、小ジワ、隈が目立たなくなります。
(「Are You Happy?」2020年3月号)
好評連載中
「岡野宏のビューティーレッスン さあ、はじめましょうか!」
第71回 「ひとつ、自信のあるものを」
(2023年3月号)