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赤色には心構えが必要〔岡野宏のビューティーレッスン〕

赤は生きている証

赤は生命感を表す色です。再放送され、いまだ人気の高いドラマ「おしん」ですが、田中裕子さん演じる逆境に耐えているおしんの口元は、白くツヤがありません。

そんなおしんにも、喜びに満ち溢れている場面があり、田中さんは、表には見えない唇の内側から上下が合わさる部分にかけて赤を塗り込み、開いた唇の間から生命の美しさを赤い血色で溢れ出るように見せました。赤をわずかに挿すだけで命がよみがえるように見えます。他の色にはない魅力を持つ赤は、時代を超えて人を惹きつける色なのです。

未完成に似合わぬ赤

しかし、赤色は、「私はボケた顔だから赤い口紅を塗れば締まる」などという簡単なものではなく、気安く使うと野暮ったさを誇張してしまう、使う人に心構えを要する色です。

作家の川端康成さんが、赤についてこんなことをおっしゃいました。

「赤い口紅はすべてが仕上がった人にしか塗ってほしくない。美人で、色白で、細面で、細身、黒髪がそろっているからこそ赤い口紅が浮かんでくる。だから、『雪国』を読んだ人が駒子に赤い口紅を想像してくれたら、それは成功した主人公だ」

一つでも未完成のものがあると、赤のマイナスのイメージが暴れ出します。服やメークに赤が上手く使えないという人は、未完成なものがどこかにあるのです。身につけたときに、格好良いか、見苦しいかのどちらかしかないのが赤色なのです。

赤を着るには心構えが必要

1992年春夏オートクチュールコレクションで、イヴ・サンローランが「女豹(めひょう)の赤リップ」の名で知られる口紅(YSL4)とともに、真赤なウエディングドレスを発表しました。そのモデルに対し、サンローラン氏は叱咤(しった)したそうです。

「きれいに見せようという前に、赤を着る心構えがなってない」

赤は、身につける前からピリッと締まったものを持っていなければ着こなせない色です。

オーストリア航空の客室乗務員の制服が真赤なスーツに変わってから応募者が減ったが、集まった人は素敵な人ばかりで、レベルUPになったと聞きました。赤いスーツが試金石となったのです。

赤を身につけるには

若さだけでは使いこなせない赤ですが、人生経験豊富な人が使う方が、上手く合わせられる率は高く、ほどよく増えた白髪と、しわ、たるみが赤と合うのは、強烈な印象のもの同士だからでしょう。

真紅の口紅に挑戦するときは、少しずつ目的の色を唇にのせていき、発する雰囲気になれるようにします。目頭、眉頭に力を加え、きりっとした表情を加えて顔の雰囲気を完成させましょう。赤い紅は顔の上で強い存在です。その負担をやわらげるには、マニキュアに赤を使うと良いでしょう。

ファッションに赤を取り入れる場合は、面積の小さい物、マニキュア、時計のベルト、ボタン、バッグ、靴、ハンカチーフ、などから始めます。慣れてきたら、マフラーやジャケットというように面積を広げます。紺系統ファッションの差し色として赤を使うと慣れやすいでしょう。

そして、赤いスーツを準備します。上下別の色、白、黒、濃紺を組み合わせ、赤に慣れていきます。それぞれの色をスーツで用意すると、バリエーションが増えて便利です。

赤は格好良く決める

赤はだらりと着ると、野暮ったさが全面に出ます。姿勢はシャンと、顎は前に出さず引き、機敏な動きを心がけます。

赤は基本、1人で出かけるときに着て、友達と出かけるときは、事前に「赤を着ます」と断りを入れると親切です。良くも悪くも、赤は目立つということを覚えておきましょう。

© K’s color atelier

「余分な物をそぎ落とす 潔さが大事です。」

今月のレッスン

赤を身につけたら愛想笑いはやめましょう。

 (「Are You Happy?」2019年12月号)


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