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サリバン先生の教育の真髄「私はただ、ヘレンの力を解き放っただけ」(後編)〔子育て110番〕

「心を持たない少女」と言われて

没後47年、今なお人類に希望の光を与え続けている光の天使ヘレン・ケラー。その偉大な生涯は、世界中の誰もが知っていることでしょう。けれど、もしあなたが、サリバン先生に出会う前の6才のヘレンに会っていたら、はたして彼女の中に偉人の片鱗(へんりん)を見つけることができたでしょうか。

当時ヘレンの周りにいた大人や医師たちは、こう考えていました――「この子には全然心というものがない」「考える力や学習する力がない」「まるで動物のようだ」と。

ただひとり、二十歳のミス・サリバンだけは彼らの助言を退け、自分とヘレンを信じて忍耐強い教育を行いました。そして、わずか数週間で「あなたは孤独ではない。あなたは『言葉』によって世界を認識し、『言葉』によって世界とつながることができる」ことを教えることに成功したのです。

愛と信頼が困難な教育を可能にする

急速に言葉を獲得していったヘレンですが、物を壊して回るクセだけはなかなか直りません。そのため、ヘレンのお人形たちはすべて壊れたり欠けたりしていました。

ある日、またヘレンに新しいお人形のプレゼントが届きました。するとサリバン先生は、人形を壊してはいけないことを理解させることができるかどうか、すぐに試みました。ヘレンに人形を持たせ、壊す身振りをさせて、「だめだめ、ヘレンはいけない子だ、先生は悲しい」と指文字を綴り、先生の悲しそうな顔を手で触らせます。それから今度は、人形を撫でさせて、「ヘレンはいい子だ、先生はうれしい」と綴り、先生の笑顔に触れさせます。

ヘレンは何かに打たれたようにじっと考え込み、その新しい人形を2階の部屋に持って行って棚に飾り、二度と壊しませんでした。

先生が悲しむことはしたくない、先生が喜ぶことをしたい。だってサリバン先生は、自分に外の世界への扉を開けてくれた忍耐強い恩人、愛と信頼を注いでくれる私の先生だから。

教育には、まず愛と信頼が不可欠だと教えてくれる貴重なエピソードです。

「なぜ? どうして? どうやって?」

認識の扉を開いたヘレンは、まさに知的好奇心の塊でした。

「先生、温泉はなぜ温かいの? いったい誰が地面の中で火を焚いているの? その火はストーブの火と同じ? 誰かが草や木を燃やしているの?」
「私は誰が作ったの? あ、大工さんかな? それとも写真屋さん?」
「ボストンは誰が作ったの? ぜんぶのものは誰が作ったの?」

いったいなぜ人々は、彼女に心がないなどと思ったのでしょう。ヘレンはさらに聞きます。「先生、考えるってどんな色?」。サリバン先生は誠実に心を込めて答えます。「幸せなときは輝く色、そうでないときは悲しい色」。こうしてヘレンは、手で触れることができない空や海や概念を認識していきます。

「私はヘレンに、自分が興味あることを私に話しかけるように教えただけです。子供らしい興味と熱心さが、彼女自身の障害を乗り越えさせたのです。私はただ、ヘレンの力を解き放っただけです」。この言葉の中に、教育の真髄があると私は思います。

前編はこちら

(「Are You Happy?」2015年7月号)

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