私たちは日ごろ、どんな言葉で喜び、傷つき、そして、どんな言葉で人を傷つけているのか――。年代も環境もさまざまな女子3 人が「言葉」をテーマに語り合いました。
Aさん:編集プロダクションの管理職。48 歳。独身。趣味は食べ歩き、ガーデニング。
Bさん:イラストレーター。40 歳・一女の母。子育てをしながら、自宅で仕事もこなす。
Cさん:会社員。30 歳。昨年結婚したばかりで仕事と家庭の両立にまだ慣れない日々。
言葉で失敗した経験は?
A 私は高校生のとき、親戚の叔母の家に居候していて、家ですごく気を使っていたんです。その分、不満も溜まっちゃって。ある日、学校帰りに友達とマクドナルドに寄って、「うちのバアが」と叔母への不満を言いまくっていたんですよ。そして家に帰ったら、「いつもマクドナルドへ行ってるの?」って聞かれて。「おばちゃんもね、今日後ろにいたんだけど、大きな声だったね」って……。
B 背筋が凍りますね、それ!
A 脇の下から冷や汗がダーッと流れてきて、すごすごと自分の部屋に戻って……。1回そういうことがあると、いくらいい子にしてても、外ではああいう子だって思われてしまって。
C 取り返しがつかないですね。
A そうそう。最近、25年ぶりにその叔母に会ったんだけど、いまだに心苦しくて。考えてみたら、娘でもないのに面倒を見てくれて、お弁当も毎日作ってくれたのに、本当に酷いこと言っちゃったなって。
B まあ当時は思春期ですしね。
A でも一度言った言葉は、もう消せないから。
C 私も冷や汗ものの失敗、あります(苦笑)。職場の上司のやり方に納得がいかなくて、とうとうキレて、同僚と「本当にありえない!」って怒りを口にしていたんです。その場に上司はいないと思ってたんですけど、10分後――。奥のパーテーションで仕切っただけの会議室からスーッ、パタンって上司が出てきて!
A・B ええっ!
C 一瞬、思考停止になりました。絶対、さっきの言葉聞かれてたなって。それまで、お世話になっていた方だったんですけど、一瞬で信頼関係は壊れましたね。
B 私もね、20代のとき、目上の女性に対してやっちゃいましたよ。私はその方のことを慕っていたんですけど、ある日呼び出されて、共通の知り合いのことを「あの人のやり方、おかしいと思わない?」って同意を求められたんです。どうやら同じ意見を集めて注意したかったみたいなんだけど、私はそうやって裏で動く感じがちょっと嫌だった。だから、はっきりと「そういうやり方は駄目だと思います」って言っちゃった。そうしたら、もうそれ以来、決裂。いまだに挨拶もできません。
A それは相手のプライドを傷つけちゃったんだね~。
B そうなんです。言い方とか、もっと工夫すればよかったんですけど、当時は私も若かったから。むしろストレートに言うことがいいことだと思っていたし、年上だから受け止めてくださるって思い込んでいたんです。それから相手に冷たくされたことがすごくショックで、「言葉はどれだけ人間関係に影響を与えるか」っていうことを思い知りましたね。
人の言葉で傷ついた経験はありますか?
A ありますね。私は小さいころ、親に「A家にこんなに頭の悪い子はいないから恥ずかしい」って言われて、小6で家を出されたんです。それに、中学生で病気になったとき、母から、「うちではこんな病気は出たことがない」とも言われて。10代で親から言われたそのふた言は本当に傷つきました。
C 親から言われるのが一番つらいですよね……
B 私は、以前、会社に勤めていたころの話なんですけど、ある日、男性上司との打ち合わせ中に、突然、「いやー、Bさんみたいな人はね、大体9割方の男は結婚したくないと思うよ」って言われたんです。
C え~!
B (はっ!? 今なんの話ですか)ってすっごいビックリして。当時、30代前半の独身で、ちょうど結婚を意識していたところだったんですよ。そこにズバッと、とどめを刺された感じで。
A それはキツい。
B でもそのひと言で、私、普段相当恨みを買ってるんだなって気付いて。考えてみたら、男性上司に対して遠慮なくズバズバと物を言いすぎることもあった。だから、(こいつをなんとかしないと)と思って、上司も言ってくれたんだと思うんですよね。
A そうやって、相手の気持ちを推し量っていてえらいですね。やっぱり、刺さった言葉を自分で抜いていく手立ては持たないと。自分で浄化していくことも大事。いつまでも傷ついていたら前に進めないです。
C 自分だって誰だかを傷つけている可能性はありますし。
B ほんとほんと。基本的には、発した言葉は、忘れちゃうしね。
A だから勘を働かせて、人の心を推し量らないといけないですね。(こう言っちゃったけど、あの人はどう思ったかな)って、ちゃんと考える時間を取らないと。
B 私は“やっちゃった!”って思ったときは、できる限り、「昨日の言葉、そういうつもりじゃなかったんだよ」ってフォローするようにしてます。
C 私も“やばっ”って思ったら、すぐメールします。
A そのフォローをするのとしないのでは全然違いますよね。
B・C 違いますね!
言葉でうれしかったエピソードはありますか?
A 私は親と疎遠だったんですけど、社会人になって、仕事のことで取材を受けた記事が新聞に載ったとき、父も見ていたみたいで。叔母から、「お父さん、あんたのことをほめてたよ」って聞いたんですよ。「うちの娘はいい仕事をしてる」と自慢してるっていうのを聞いて、やっぱりうれしかったですね。
B 人から聞くと、本当にうれしいものですよね。
C うれしい! 信憑性があるからかな。
B 私は高校のとき、やりたいことも見つからなくて、やる気がなかったんですよ。ある日、美術ののデッサンの宿題で、「なんでもいいからスケッチしてきてください」ってスケッチブックを渡されて。私、絵を描くのが好きだったから、いっぱい描いたんです。
C へ~。
B それを先生が感心してくれて、私のスケッチブックにだけ、メッセージが書かれてあったんです。「君のデッサン力は群を抜いているから、そのままがんばりなさい」って。それで私、すっごいやる気が出て、「私はこの道なんだ!」って気付きました。あの言葉がなかったら、美大に進学しなかったかもしれないし、イラストレーターの仕事にも就いてないと思う。
C 言葉って、人の人生を変えるんですね。
A だから、相手のすばらしいところを見つけたら、どんどん言ってあげたほうがいい。
B そう思いますね~。
C 私は20代で上京して、仕送りもなかったので、学校に通いながら寝る間も惜しんでアルバイトをしていたんです。そのとき、実家から届いた荷物に、食料と一緒に1万円札と手紙が入ってて。父の字でひと言、「無理せずにがんばれよ。最悪のときは実家に帰ってくればいい。心配ないよ」って書かれてあったんです。もう号泣でした。
B それは号泣するよ~。
C いまだにあのひと言は忘れられません。つらいことがあったときも、「私には家族がいる」と思うとがんばれるんですよね。
B つらいときに、かけられた言葉は大きいよね。私も子どもが生まれて、1歳ぐらいまでは夜も寝られなくて、ものすごい大変だった。でもそんなとき、バスの中とかで、ふと先輩ママが声をかけてくれるんですよ。「ママ、今大変な時期ね」って。もう、それだけですごく癒されるんです。
A・C へ~~。
B あとはね、この間、知り合いがうちの主人の仕事ぶりを見て、「あんなに素晴らしい旦那さんを支えている、Bさんは素晴らしい!」って言ってくれたんです。
C おぉ~!
B そのひと言でほんっとに癒されて。日ごろの大変さが全部報われた感じでした。
「言葉」で心がけていることはありますか?
C 私はこれまでの失敗体験も踏まえて、いい言葉も悪い言葉も絶対にめぐりめぐって返ってくると思っていて、人を批判する場合でも、本人に聞かれてもいい言葉を発するようにしてます。
B それは大事。どこで聞かれてるかわかんないもんね(笑)
C はい(泣)
A 私は、自分から部下に公平に話しかけるようにしてます。昔、女性を蔑視する上司のもとで働いていたときに、何にも話しかけてもらえなくて、席も一番端っこで。無視されるのって、すごくつらいって思ったから。
B 私は、家庭のことですけど、最近、娘が私の言葉をまるまるコピーするんですよ。最近は「あーんもう!」っていうの(笑)
A・C あははは。
B 自分は全然気付いていなかったんだけど、ある日、娘が言っているのを聞いてビックリ!
A 九官鳥みたい(笑)
B そうなんですよ。だから、言葉については反省してばっかり。あと、「うるさい」って言わせたくないと思って、「お静かに」って言ってたの(笑)。でも、1、2回、「うるさい!」って怒ったら、娘はしっかり覚えてて、「うるさい!」って言うんですよ(泣)
C すごいですね!
B 発する言葉にはほんと、気をつけないといけないんです。あとは、娘の前で主人をほめるようにしてるかな。
C どんな風にですか?
B 娘に、「パパが大好きだもんね~」、「パパすごいね~」って言ったり。すると主人も機嫌がよくなって、家庭の雰囲気もよくなるんですよね。
C なるほど、勉強になります!
A でもそうやって、パパっ子にしといて、面倒を見てもらってるんでしょ?
B えっ、わかりました?(笑)育児を楽にする秘訣もやっぱり「言葉」にあり、なんですよ~。
(「Are You Happy?」2013年8月号)