ノルウェー国立バレエ団 プリンシパル西野麻衣子さん ママとしても バレリーナとしても 100%輝きたい!(2016年)

西野麻衣子最終

ノルウェー国立バレエ団でプリンシパルとして活躍する西野麻衣子さん。妊娠・出産を経て現役復帰を決意し、ママとしてバレリーナとして飛躍し続けてきた西野さんにお話をうかがった。(2016年)

 

人生いちばんの選択は15歳での海外留学

「世界で活躍するバレリーナになりたい」――子供のころからの夢を叶え、ノルウェー国立バレエ団初の東洋人プリンシパルとして活躍する西野麻衣子さん。中学卒業後にヨーロッパへ留学、海外のバレエ団への入団、結婚、出産、そして、難役とされる「白鳥の湖」で舞台復帰と、これまでの人生において、いくつもの大きな選択をしてきた。

なかでもいちばんの転機となった選択は?
「やはり、中学を卒業して英国ロイヤルバレエスクールへの留学を決めたことです。小学生でバレエを始めたときから、“バレエをするなら、本場のヨーロッパに行きたい”という思いがあって、中学1年生の夏休みにスイスのサマースクールに参加したとき、“中学を卒業したらすぐに海外に出よう”と決めたんです。日本の高校に行くことはまったく頭になかったですね。両親は驚いたと思います。でも“だめ”とは決して言わず、全力で私の夢をサポートしてくれました。英語もまったくできませんでしたが、とにかくバレエのことしか考えてなかったですね。もし高校卒業まで待っていたら、今の自分はなかったと思っています」

15歳で親元を離れ、単身海外留学。言葉の壁があり、不安や悩みを相談できる相手がいない辛さからホームシックになったというが、“やめたい”と思ったことは一度もなかったそう。

「これまで自分でしてきた選択で、後悔したことはないですね。バレエの世界も、自分の努力だけではなく、運やタイミングがあります。振付家や監督と、どういうタイミングで出会うかということは、バレリーナとしてのキャリアに大きく影響するので、そういったチャンスに出会ったときは、逃さずつかむようにしています。そして結果を残すよう努力する。基本的に、迷ったときはとりあえずチャレンジしてみるんです。ときには失敗することもあるし、思うような結果が出ないこともありますが、何事もやってみないとわからないですし、やらないで後悔するのはいやなので。いただいたチャンスはどんなものであれ、自分の糧にするよう努力はしていますね」

 

復帰作に選んだのは難役「白鳥の湖」

そんな西野さんが、出産後、復帰作に選んだのが、ひとり2役を演じ分け、連続32回転の大技が組み込まれている難役「白鳥の湖」だった。映画「Maiko ふたたびの白鳥」では、それがどれだけたいへんなチャレンジであるかが克明に描かれており、大きな見どころとなっている。

西野麻衣子白鳥の湖

「今考えると、すごい選択をしたなって自分でも思います(笑)。ノルウェー国立バレエ団では、ママのバレエダンサーの方がたくさんいるのですが、彼女たちからも、“「白鳥の湖」で復帰するのはかなりたいへんだと思うよ”と何回も言われました。でも、「白鳥の湖」は、プロになって初めて両親が観に来てくれた作品であり、05年のプリマデビューで踊った作品でもある、自分にとって特別な作品なんです。それに、これまでに何回も踊ってきて、“この作品を知り尽くしている”という安心感もありました。私は家庭も仕事も、常に100%で臨みたいと思っているんですが、それはきっと、子供を3人生んでもバリバリ仕事をしていたキャリアウーマンの母に小さいころから憧れていたからだと思います。ですので、この選択も自分にとっては自然なことでした」

 

41歳の「定年後」のプランとは?

次の公演は16年1月。ノルウェーの本拠地で、ロマンティックバレエの真骨頂である「ジゼル」を踊る。クラシックからコンテンポラリーまで自在に踊りこなし、05年にはノルウェーで芸術活動に貢献した人に贈られる評論文化賞を受賞したこともある西野さんは、来年36歳。あと5年でダンサーとしての「定年」を迎えるという。

「5年というのは長いようであっという間だと思います。ダンサーにとっての41歳というのはけっこうたいへんなんですよ。41歳のときに、どれだけ自分のベストで踊れるか。私は、長く舞台に立つのがいいことだとか、50歳、60歳になっても踊っているから素晴らしいとは思っていないんです。例えば、50歳になっても自分のベストの状態で舞台に立てるのならいいですが、それができないなら、私は“ベストなときに引退する”という選択をします。お客様に自分のレベルが落ちていくのは見せたくない。ダンサーとしてのプライドです」

引退後の人生について考えたことは?

「あります。メイクアップアーティストになりたいと思っているんです。41歳というとバレエ界ではベテランの年齢ですけど、世間に出るとまだまだ若いですから、いろんなことにチャレンジしたくて。ヘアメイクは小さいころから興味があって、大好きなんです。自分より人をきれいにするのが好き。友達の娘さんが、“麻衣子、きれいにして!”って来るので、よくメイクをしてあげたり髪をセットしてあげたりしているんですよ。メイクは自己流。今はインターネットを見たりして勉強しています」

 

“常にトップで輝き続ける”という選択

劇中では、生まれたばかりだった長男アイリフくんも、この10月に2歳の誕生日を迎え、「毎日、走って跳んでいる」という。

「アイリフも体を動かすのが大好きなんですよ。バレエより体操のほうが向いてるんじゃないかな(笑)。でも、どんな道を選んだとしても、母が私にしてくれたように、彼の夢を全力で応援してあげたいですね。アイリフが生まれてからも、“常にバレエは120%で取り組む”というスタイルは変えていませんが、やはり自分の時間は減りました。トレーニングやリハーサルの時間は決まっていますが、自己トレーニングの時間や休む時間、寝る時間がかなり減ったので、この状態でベストな自分に持っていくのはたいへんで、かなりの努力がいります。でも、“母になってもトップでいる”というのは自分が選んだ道です。これからも、できる限りの努力を続けて、“ママのプリマバレリーナ”として輝いていきたいと思っています。そして、ママとしてはまだアマチュアなので、上手にママ業もできるよう、こちらも日々努力中です(笑)」

(2016年2月号)

 

「Maiko ふたたびの白鳥」

15歳で英国ロイヤルバレエスクールに留学し、19歳でノルウェー国立バレエ団に入団、25歳で同バレエ団初の東洋人プリンシパルとなった西野麻衣子。

出産・育休を経てプリンシパルへの復帰を決意した彼女が、オペラハウスの芸術監督である夫ニコライや尊敬する母親・衣津栄ら温かい家族に支えられながら、クラシックバレエの中でもとくに難役とされる「白鳥の湖」に挑む姿を追ったドキュメンタリー。

西野麻衣子全身

監督・脚本:オセ・スべンハム・ドリブネス 出演:西野・エケベルグ・麻衣子、西野衣津栄、イングリッド・ロレンツェン、ニコライ・ニシノ・エケベルグ、アイリフ・アツオ・ニシノ・エケベルグ、西野敦夫、ノルウェー国立バレエ団ほか 配給:ハピネット/ミモザフィルムズ 2015年/ノルウェー/70分
http://www.maiko-movie.com/

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西野麻衣子 

ノルウェー国立バレエ団 プリンシパル

1980年大阪生まれ。6歳よりバレエを始め、15歳で名門英国ロイヤルバレエスクールに留学。19歳でオーディションに合格し、ノルウェー国立バレエ団 に入団。25歳で同バレエ団東洋人初のプリンシパルに抜擢される。同年、オデットとオディールを見事に演じ分けた「白鳥の湖」全幕で高く評価され、ノル ウェー評論文化賞を受賞。172cmの長身と長い手足を生かしたダイナミックかつエレガントな踊りで、クラシックからコンテンポラリーまでノルウェー国立 バレエ団のレパートリーすべてに主演する。私生活では、オペラハウスの芸術監督であるノルウェー人の夫・ニコライさんと長男・アイリフくんと3人暮らし。 母親となった現在も、同バレエ団の永久契約ダンサーとして精力的に活動を続けている。