大事なことは大人から学ぶ
「ひこうきのよくとぶヤツ、どうやっておるの?」
「なんで(水道から)おみずでるの?」
「どうしてつくえにのったらいけないの?」
お教室の子どもたちは、毎日次から次へと様々な質問をくり出します。四方八方からの問いに、もうひとり分の口と手がほしいと思うこともしばしば。それでも、一人ひとりの子の問いに、できるだけ誠実に、子どもがわかる言葉で答えたいと思っています。それが、大人の大切な役割だと思うからです。
子どもと大人の違いは何かと問われたら、それは、経験の量と、そこからくる知恵の量だと言えるでしょう。
大人は、子どもより先にさまざまなことを勉強したり経験したりしています。だから、子どもたちがまだ知らないいろいろなことをたくさん知っています。子どもたちは、勉強であれ、善悪であれ、幸せに生きる方法であれ、たいていのことは、家庭や学校で大人から学ぶようになっているのです。これは人間社会の素晴らしい仕組みです。
大人への尊敬と学習能力の関係
「大人は何でもよく知っていてすごいなぁ。大人の話を素直に聞いて、たくさん学ぼう」という心の姿勢を持っている子は、吸収力の高いスポンジのように、早い段階から〈学び取る力〉をいっぱい発揮します。なぜなら、大人に対する尊敬の思いや安心感が、子どもの心を外に向かって大きく開かせるからです。心が開かれていると、身の回りのさまざまなことを、抵抗少なくスムーズに学び取ることができます。
反対に、大人を尊敬できず、大人や社会に対する不安感、不信感が根っこにあると、どうしても反抗心が先に立ってしまい、スムーズな学習を妨げます。これは2才児でも、思春期の子どもでも同じです。
大人の知恵は、ちょうどダムに蓄えられた水のようなものです。そして「大人への尊敬と素直さ」は、太い水道管です。この水道管が通っている子どもの心には、知恵の水が勢いよく大量に流れ込みます。しかし反抗心の強い子どもには、ストローのような細い管しか通っておらず、知恵の水も、チョロチョロとしか流れ込みません。
子どもの心に「大人への尊敬と、素直な心」という太い水道管を引いてあげることは、子育てにおける親の大事な仕事のひとつでしょう。それはもちろん、大人の思い通りになる子どもを作るためではなく、子ども自身が知恵の水をたくさん吸収して、将来大きく花開いていくためです。
子どもから尊敬される大人になる
この本は、子どもたちに「目上の人を尊敬して、いろいろなことを学ぶと、みんなは立派な人になれますよ」と教えてくれています。しかし、親の立場からこの本を読むと、「子どもに尊敬される大人になる」という、非常に難しい課題が見えてきます。
尊敬は、相手に強要して得られるものではありません。自らを反省しながら、生き方や考え方を正していく中で、自然とかち取っていくものです。子どもたちから「パパやママや先生は素晴らしいなあ。自分もああなりたいなあ」と思ってもらえる人間になるための懸命な努力が、大人の側にも必要ですね。
(2012年12月号「子育て110番」)
奥田敬子
早稲田大学第一文学部哲学科卒業。現在、幼児教室エンゼルプランVで1~6歳の幼児を指導。毎クラス15分間の親向け「天使をはぐくむ子育て教室」が好評。一男一女の母。