渡部昇一氏インタビュー ジョセフ・マーフィーに学ぶ「潜在意識成功法」(2013年)

1950年代後半に留学先でジョセフ・マーフィーの著作と出会い、「大島淳一」の名前で翻訳、日本にマーフィーの潜在意識の法則を紹介した渡部昇一氏。渡部氏自身もその効果を実証済みの、潜在意識を使った成功法則についてお話をうかがいました。(2013年)

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「潜在意識の利用法」を広めた
ジョセフ・マーフィー

 ジョセフ・マーフィーの功績は、「潜在意識の利用法」を発見して広めたことにあります。

 潜在意識の存在を証明したのは、19世紀の精神分析学者フロイトです。彼は主として精神病患者の治療をしました。その少し後に出た精神医学者のユングも人間の心理を研究しましたが、彼は理論がおもしろいんですね。全人類は潜在意識(無意識)の奥底でつながっているという説を唱えました。

 マーフィーは、その潜在意識の「利用法」を理論づけて、個人個人の生き方に対するアドバイスをした人です。理論的にはユングの系統に近いのではないかと私は思っています。

 

潜在意識に送り込むと夢や希望は実現する

マーフィーの成功法則を簡単にいうとすれば、「夢や希望は、潜在意識にうまく送り込むことに成功すれば実現する」ということです。

 そのとき、潜在意識の原理を理解して確信が深まれば、送り込みやすいのは事実です。ただ、電気の原理を知らなくても電化製品を使うことができるように、心理学の専門的な知識がなくても、潜在意識を使うことはできます。

 人が何かを実現したいとき、顕在意識(表面意識)で実現しようと思ったら、協力してほしい人を「言葉」で説得します。しかし、潜在意識の場合は、自分の希望を全人類共通の潜在意識の世界に送り込めばいいわけです。その希望が、潜在意識の世界のどこでどうなるかわからないんだけれども、あるとき、天の一角からはしごが降りてくるように、思いもよらない形で実現するのです。

 

アメリカ留学という夢

 ただ、実現には時間がかかることもあります。一見、自分の希望とは反対の方向に進んでいるように感じるときもある。でも、あとでふり返ってみると、そのほうがずっとよかったということがあるのです。

 私は上智大学の英文科の学生だったとき、英語学の研究のためにアメリカに留学したいと思っていました。しかし、成績はよかったにもかかわらず、勉強ばかりしていて社交性に欠けるという理由で留学生の選抜にもれてしまったのです。大学2年生のときでした。

 ただ、落ち込んでいても仕方がありません。「英語学の研究はイギリスよりドイツが50年進んでいる」という話を聞き、英語に加え、ドイツ語の勉強も始めました。大学院に進んでからも、なんとなく勉強を続け、本屋でサミュエル・スマイルズの『セルフ・ヘルプ(自助論)』のドイツ語版を見つけて、「これはドイツ語の辞書を引く手間が省けていい」と(笑)、英語版と照らし合わせて読んだりしていました。

 

天から〝はしご〟が降りてきた瞬間

そんなある日、〝はしご〟が降りてきたんですね。私は一時期、大学院長の助手をしていたのですが、用事で院長を訪ねたときにドイツ語の雑誌を渡されて、訳してみてくれと言われました。そのなかに、とても訳すのが難しい単語があったのですが、ちょうど前の日の晩に私が調べたばかりの単語だったのです。そんなことが起きる確率は、確率論からいえばほぼゼロです。そうした、確率以上のことを起こしてくれるのが潜在意識の力なのです。

 うまく訳すことができた私は、ドイツ留学のチャンスを手にしました。海外留学が今ほど一般的ではなかった当時、英文科の私がドイツに留学するということは、異例のことでした。

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自分が願っていた以上の条件で夢が実現した

 ドイツ留学のあとは、そのままイギリスのオックスフォード大学に留学しました。そのとき、ロンドンで立ち寄った本屋で、ジョセフ・マーフィーの本に出会ったのです。

 日本に帰国後は上智大学で英語を教えていたのですが、「次はアメリカに行きたい」と思っていたらフルブライト計画(アメリカの国際人材交流プログラム)に関係しているアメリカ人と知り合いになり、招聘教授としてアメリカの大学に行く機会にも恵まれました。しかも4つの州の大学を回ることができたのです。

 大学2年生のときに留学したいと思っていたアメリカに、15年以上のときを経て、訪問教授というずっといい条件で行くことができました。当時、ヨーロッパとアメリカの両方に留学した人は少なかったはずです。もし、大学2年でアメリカに留学していたら、その後、ヨーロッパに留学するのは難しかったでしょう。

 

夢を描いたら目の前のことを着々とやる

 このように、潜在意識に送り込まれた願いは、やがて実現するわけですが、ここで大事なのは、夢を描いたら、あとは目の前のことを着々とやることです。私は大学2年のアメリカ留学のチャンスは逃したけれども、毎日の勉強はよくやっていたわけです。毎学期毎学期の試験も一生懸命取り組んでいました。
 これは、スポーツでも同じです。フィギュアスケートの選手は、練習しなければうまくなりません。しかし、ただ滑っているだけでも、ある程度以上はうまくならない。うまく滑っている自分を心に思い描きながら、毎日毎日、練習をしてステップを改良していくと、ある時点で、予想もしない形で、〝はしご〟が降りてくるのです。

 

裏表なく努力する人には
オーラ的なものがある

 また、女性が、「白い馬に乗った王子様みたいな人が現れてくれないかしら」と、ただ思っていても現れるわけがないですね。でも、そう願いながら、毎日毎日やるべきことをしっかりとやっていると、「あの人、よくやっているな」とパッと目にとめる人がいて、ある日、天の一角から、白い馬に乗った人がやってくる可能性はあります。年齢は関係ないですよ。世の中には、うんと大金持ちのやもめなんていう男もいるんですからね。

 裏表なくよくやっている人、潜在意識に入るくらいの強い希望を持っている人は、誰が見ても、なんとなくわかるものなのです。オーラ的なものがあるんですね。たとえ、下っ端の仕事をしていてもわかります。下っ端から偉くなった人はみんなそうです。どこか、見どころがあるんです。上の人はみな、役に立つ人間を求めていますから、すぐにはわからなくても、どこかの時点で、必ず目にとまるのです。

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「内発的な願望」は天からのメッセージ

 ひとつ重要なことを付け加えるとすると、内発的な願望が湧いてくるということは、「あなたにはまだ、その願望が実現する可能性がありますよ」という、神様か仏様か、何かそうしたものからのメッセージだということです。

 子どものころはみな、「総理大臣になりたい」とか、「オリンピックに出たい」と思うでしょう。思っているうちは、「可能性がある」と天上のほうからメッセージが出ているのです。でも、だんだんと思わなくなる。そのときは、「あなたには、もう可能性がありませんよ」ということです。

 たとえば、私は今、若い女性と一緒に旅行して、同じ部屋に泊まっても、手も出ないと思うんですよ。それは、「お前には、もうその可能性がなくなった」というメッセージでしょうね(笑)。

 

今、生まれ変わったら予備校の講師になる!?

 私は大学教授になり、本を書く身分になりましたが、はじめは中学か高校の先生になろうと思っていました。ところが、大学に入ると、絶対に大学の先生になろうと思ったんですね。なぜか。大学は休みが多いのです。週に数日、半日だけ来ればいい。こんないい職業はないと思ってね(笑)、絶対、大学の英語の先生になろうと思ったわけです。

 そして実際、私は水曜日と金曜日の午前中だけ大学で講義をして、あとは本を書いたり、講演をしたりしていました。金曜日の午後、家に帰ると、「ああ、来週の水曜日まで何にも義務がない」というのがいい気分でね(笑)。

 まさに天職でしたが、最近は大学の先生も忙しいようですから、今ならなりたいと思うかわからない。今、生まれ変わったら、教え方のうまい、予備校の先生などがいいかもしれないですね。

 

自然に感謝が湧いてくるとき

 内発的に自分のなりたいものがはっきりすると、今度は、他の人に感謝の念が出るんですね。「私がやりたいと思わない仕事をやってくれる人がいてくれて、ありがたいな」と感じる。これは「感謝しろ」と言われたからするのではないのです。自然と湧き出るのです。

 たとえば、今日、私は取材場所までタクシーで来ましたけれども、私はタクシーの運転手になりたいとは思わないから、運転してくれる人がいてくれてありがたい。喫茶店でコーヒーを淹れてくれる人もありがたい。それを運んで来てくれる人もありがたい。みんなありがたいんですね。このごろは〝ありがた爺〟で、なんでも感謝です(笑)。

(2013年7月号)

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渡部昇一 

上智大学名誉教授

1930年、山形県生まれ。上智大学大学院修士課程修了。独ミュンスター大学、英オックスフォード大学留学。ミュンスター大学哲学博士 (Dr.Phil.)、同・名誉哲学博士(Dr.Phil.h.c.)。上智大学名誉教授。専門の英語学のみならず、幅広い評論活動を展開する。第一回正 論大賞受賞。著書は、専門書のほか、『知的生活の方法』(講談社現代新書)、「日本の歴史」シリーズ(ワック)、『歴史を知らない政治家が国を亡ぼす』 (致知出版社)、「渡部昇一ブックス」シリーズ(広瀬書院)など多数。