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おしゃれと自分

知らない人のメークは難しい

初めて会う人のメークをするのは難しいもので、時間の許す限り出身地や食べ物、ファッションなど、たわいもない話から、好みや暮らしぶり、思考を探ります。メークは感覚的にしていると思われがちですが、そうではありません。内にある、目には見えないその人の魅力が周囲に伝わるよう、目的に合わせて表に見えるようにするのがメークアップです。

おしゃれの中心は自分

時折、「自分」についてよく分かっている人に出会います。パリやミラノの人たちのおしゃれの根本にあるものは「自分」で、彼らは心の内にある思い、(自分をどう見せたいのか、どう見られたいのか)を、常日頃から考え、おしゃれと格闘しています。
本来おしゃれは「自分」あってのものです。自分のことは、なかなか客観的な目で見るのは難しく、アドバイスしてくれる人が周囲にいない場合もあるでしょう。そのようなときは、まず自分の好きな部分を見つけることから始めてみてください。

好きな部分を紙に書き出す

女優は自分のことが大好きな人ばかりで、良い部分を知っているから、それを活かして魅力的な姿を見せることができます。ところが彼女たちも世の流れの中にいると、自分を見失うことがあり、そのようなときに試してもらう方法があるのでご紹介します。
紙を用意し、自分の良いところ、好きだと思う箇所をできるだけたくさん書き出します。たったそれだけです。人に見せる必要はありません。他人から見たらおかしなところも、自分が好きなら書き出します。これは、心理学者で、作家でもある北杜夫さんと話して行き着いたやり方です。
「私なんか欠点だらけ」
と言っていた野際陽子さんに試してもらいました。
「モヤモヤしていた自分の形がハッキリ見えてきたわ」
人の形は、外見と内面が合わさって出来上がります。心と向き合うことで、自分を好きになるきっかけになったそうです。
「鏡を見ながらぐちぐち言っていた娘にも教えてあげなくちゃ。心をのぞきなさいって」

ひとかけらのきらめきを探す

さて、もうひとつ精神科医に教わった、自分を知るための方法をご紹介します。A4サイズほどの画用紙に、あなたの生活にあるものを思いつくまま描いてみましょう。家や庭、太陽、花、自転車、家族、自然、仕事に関する物……なんでも構いません。
そこに描かれたすべてのものが、良くも悪くもあなたに影響を与えています。それらの存在を認め、支えられているのだと知ることで、自分をいとおしく思い、好きになることにつながるのだそうです。
この話を聞いたとき、俳優の緒形拳さんの話を思い出しました。映画「飢餓海峡」の極悪犯の役を演じることになった彼は、人を殺傷するような人物とどう向き合えばよいか、戸惑いを覚えたそうです。
「でも、ロケ地で扮装テストをして、北風が吹きつける、さびれた港町に明かりがぽっと灯るのを見ていたら、極悪犯の役でも好きになれるということが分かったんです」
どんなにつらい世界にも、ひとかけらの幸せがあり、それは、その世界を生きる人の魅力となると感じたそうです。
先ほどの、自分の周囲のものを描くのは、自分の生きる世界にある幸せを探し、気づくための作業なのでしょう。おしゃれやメークをすることは、「自分」探しです。自分のいる環境や心の中にある、ひとかけらのきらめきを、どうぞ見つけ出してください。
「どんな人にも必ずあると思って探す。そうすれば絶対に見つかる」
緒形さんから学んだことです。

きらめきは 日常の中に見つかります
© K’s color atelier

今月のレッスン

自分の好きな箇所を20個以上書き出してみましょう。

 (「Are You Happy?」2022年5月号)


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岡野宏 

1940年、東京都生まれ。テレビ白黒時代よりNHKアート美粧部に在籍。40年以上にわたり、国内外の俳優だけでなく歴代総理、経営者、文化人まで、延べ10万人のメークやイメージづくりを行う。“「顔」はその人を表す名刺であり、また顔とは頭からつま先までである”という考えのもとに行うイメージづくりには定評がある。NHK大河ドラマ、紅白歌合戦等のチーフディレクターを務め、2000年にNHK退所後は、キャスターや政治家、企業向けにイメージアップの研修や講演活動などを国内外で行っている。著書に『一流の顔』(幻冬舎)、『渡る世間は顔しだい』(幻冬舎)、『トップ1%のプロフェッショナルが実践する「見た目」の流儀』(ダイヤモンド社)、『心をつかむ顔力』(PHP研究所)等。

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