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ちょっとだけよそ行きに

普段着をよそ行きに

「自粛生活が続き、普段着に慣れてしまって、よそ行き着に困る」という声を聞きます。普段着で出かけても、相手が(それは、よそ行き着)と思ってくれれば、普段着も立派なよそ行きになります。わざわざ新しい服をあつらえなくてもよいのです。では、どうすれば、普段着がよそ行きの雰囲気になるのでしょうか?

足すのは笑顔から

浜美枝さんのラジオ番組に出演するため、文化放送を訪ね、あいさつに頭を下げると、浜さんの足元はすでに消音用のスリッパに履き替えられていました。ところが、話の流れで急に宣伝用の写真を撮ることになったのです。
「あら、それはたいへん、よそ行きに変えなきゃ。よそ行き、よそ行き」
浜さんはスタジオの端にあるロッカーの鏡の側に移動すると、シャツの襟を立て、ハイヒールに履きかえました。鏡の前で全身を確認すると、最後に鏡に向かって笑顔を作りました。
「ハイ、OKです」
二つ目のボタンまで開けたブラウスの胸元に、アクセサリーはありません。
「アクセサリーでスイッチが入る人がいるけれど、私は代わりに表情を豊かにしています」
笑顔を足してみて、それでも何か物足りないと感じたときにアクセサリーをつけるのだそうです。笑顔に勝るアクセサリーはありません。そういえば、浜さんは打ち合わせ中から笑顔が絶えず、時折真剣な顔で話を聞いてくれる雰囲気に、人柄が現れて好感の持てる顔でした。

生活のにおいを消す

日常着ているものに、アクセサリーを足してよそ行きに見せようとするのはとても難しく、大方のアクセサリーは悪目立ちして終わります。効果的に使いたいなら、日常からつけ慣れておくことをおすすめします。アクセサリー使いが上手かったのは樹木希林さんです。個性的なデザインのアクセサリーを、服のたるみすぎやぶかぶかな部分の調節に使われていました。
「特に、よそ行きって服は持ってないのよ。アクセサリーの止め方で服のラインを変えれば、普段着になったり、よそ行きになったりするの」
そのためか、いつも少し大きめの服を選ばれていました。
「でもね、出かける前は、髪を洗って、生活のにおいとか、クセとかを取るの」
気分も切り替わるし、相手にも爽やかさが伝わります。おろしたてのストッキングを履いたり、汗を拭くハンカチとは別に、もう一枚清潔なものを持って出るというのも同じような効果があります。
「気持ちを改めさせてくれるものが、よそ行きってことなのよね」
生活のにおいを消し、少しだけ背筋を伸ばすと日常とはちょっと違う雰囲気が現れるのです。

シャネル流、瞬間リメーク

パリでココ・シャネルのお弟子さんから、簡単に服の雰囲気を改める方法を教わったことがあります。シンプルなシャネルスーツを着た彼女は上着のボタンを外し、細長いストールを首に掛けました。首に垂れたストールの片方を上着の外したボタンにかぶせ、ボタンを留めると、あっという間に包みボタンに早変わりします。
「残った長い方のストールを首に巻き流します。ポイントは、上着の下からストールが見えないようにすること」
どの程度の長さが必要かは生地によって異なります。最初は柔らかい布で、慣れてきたら弾力のあるコットンやリネンでもできます。毛糸のカーディガンはジョーゼットのストールでボタンを包むと、柔らかくよそ行き風になります。ボタンにこだわるフランス人らしい、しゃれた瞬間リメークです。日常着にひと手間を加えるだけで、ちょっとしたよそ行きになります。少し気分を変えて、外出してみませんか。

© K’s color atelier

シンプルなスカーフやブローチは重宝します

今月のレッスン

出かける前に、生活のにおいを消し、少しだけ背筋の伸びるものを身に着ける。

 (「Are You Happy?」2021年10月号)

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