40カ国以上を取材し、国際問題や世界から見た日本の研究を続けているノンフィクション作家・河添恵子さんに、“国防”の大切さや揺れるアジア情勢、日本を守るために必要な“強さ”についてうかがいました。
強くなることが日本の安心と安全を守る
〝国防〟という言葉を聞くと、多くの女性は、「戦争はダメダメ」と怖がったり、その話題を避けようとする傾向が強いように思います。それで日本を守り抜き、戦争を防ぐことができるなら本当に理想ですが、世界は果たしてそのように動いているでしょうか?
そもそも過去の歴史を振り返れば、戦争は、国家としての軍事力はもちろん、情報戦にも弱い国が仕掛けられ、挙げ句が敗者になっています。つまり軍もインテリジェンスも秀でていれば、それがまず〝抑止力〟となるわけで、すなわち国防力なのです。
現状の軍事力で言えば、北朝鮮がもし今、核ミサイルを日本のどこかへピンポイントで撃ち込んだとすれば死傷者が出るのみならず、惨憺たる状況に巻き込まれてしまうでしょう。核ミサイルの発射直前までに、敵地を攻撃して破壊するレベルの軍事力を日本が独自で持っていない現状のほうが、冷静に考えれば怖いし、不安ではないでしょうか。
国防の話題になると、憲法九条の改正がよく議論されます。いわゆる〝護憲派〟は、「憲法九条があるから日本は平和なのです」「米軍基地がなくなれば安心で安全」「戦争反対」などと訴えてきました。確かにGHQに押し付けられた憲法を、日本はこれまで改正することなく、奇跡的に平和が保たれてきました。
では、北朝鮮の核・ミサイル開発と実験。昨今の隣国による脅威に固く口を閉ざしているのはなぜでしょう?
中国だって、とっくの昔から核保有国なのです。一見、耳当たりのいい護憲派たちの主張ですが、日本の弱体化、属国化に加担している方々としか思えません。そもそも日本で誰が戦争をしたいと言っていますか? 戦争をしないための国防なのです。
もし家をより安全にしたいなら、玄関のカギ穴を2つにして、警備会社に防犯サービスを頼んで、さらには番犬を飼うことになるでしょう。セキュリティが万全の家とそうではない家が建ち並んでいれば、泥棒は入りやすい家を迷わず狙うはずです。
国防も同じイメージで考えればいいと思いますが、違いは核ミサイルを防ぐのは自力では何ともならず、国に依存するしかないことです。もちろん、核シェルターを自宅に備え付けて身を守る方法もあるでしょうけれど、地上の一帯が焼け野原になってしまえば、そこには暮らせなくなります。
世界の情勢は、極端には常に戦前か戦時中と言えます。また、平和を心から愛する権力者など、おそらく少数でしょう。なぜなら皆、死闘を繰り広げ権力の座に就いたわけで、武器の密売など軍事産業で儲ける支配層も多いうえで、独裁者は常に暗殺を狙われているとの警戒心からも攻撃力を高めていきます。
そういった世界のスタンダードと比べて、日本はとても平和で幸せなのですが、その分、アメリカに守られると妄信しすぎているのでは? 日米安保があるとはいえ、突如、破棄される可能性だって将来的にはゼロではありません。強くなることが、日本の安全と安心を守ると考えています。
話し合いも強い態度で臨むのも大同小異
世界のルールは常に「弱肉強食」です。弱ければすぐに狙われ、食われてしまいます。しかも中国大陸の支配層は、いつの時代も勢力拡大の野望を秘めています。北朝鮮が核・ミサイルの開発を長年続けてきたのは、金王朝が「中国の属国になりたくない」という思いを抱いているのが一因だと私は解析しています。「中国は千年の敵」という話も聞いたことがあります。
つまり民族の文化や言語、宗教観も失ってしまった近隣の満州人、そしてチベットやウイグル、モンゴルのようには絶対なりたくないとの思いです。金王朝を擁護するつもりはありませんが、「断固抗議する」といった類の言葉しかない日本政府のことも、正直、私は違和感があります。なぜなら、話し合いも強い態度で臨むのも大同小異です。すでに我々の頭上、秋田や青森などではJアラートが鳴っているわけですし、日本海などでミサイルの残骸が落下しているのです。
しかも、北朝鮮の暴発を止めるために、トランプ政権と習近平政権は経済制裁などで協力する体制を取っていますし、ロシアのプーチン大統領も、色々と存在感を見せています。米中、中露、米露などは、北朝鮮に関しておそらく何らかの密約もあるはずです。日本が裏外交を巧みにやっていればいいですが、基本的にはアメリカのポチ的な体質ですから果たしてどうでしょう?
トランプ政権は、アメリカ製の武器を日本に大人買いしてほしいのでしょう。ただ、私の考えですが、日本は北朝鮮の有事に便乗して財政出動を決め、それを最先端技術の革新などに投じ、経済力、すなわち国力を飛躍的にアップさせていく。これこそが主権国家らしい、日本の進むべき道ではないかと思っています。
世界から愛される日本の文化を守るには
国としての日本の評価は、残念ながら低迷していますが、その一方で日本人や日本の文化に対する評価は上昇し続けているようにも感じています。日本のいわゆる〝おもてなし〞。細やかな配慮や何げない行為に感動したり、尊敬の念を感じたりする外国人観光客はより顕著になっています。
それと、欧州の小国などでも日本語学習熱において、人気は総じて高いといえます。アニメやJポップなどのサブカルチャーが好きな学生はもちろん、専門分野を究めるためにも、日本語を選びたがる学生は少なくありません。
たとえば建築分野を専攻していると、数寄屋(すきや)造りなど、日本の伝統的な技術に興味を持ったりします。これらが解説された文献を直接的に理解したいと考えれば、日本語を学ぼうとします。医療やサービス業などに従事する方々も、日本のその質の高さから日本語への関心が沸くようです。
とはいえ、将来的に日本がどこかの属国にでもなれば、世界から評価されている日本の文化も消えてしまう危険があります。中国は、侵略した土地に暮らす民族から母国語を奪い、中国語を標準語にするという〝民族浄化〞を繰り返してきました。台湾も戦前は日本語と台湾語、客家語などが標準語でしたが、戦後は、中国から渡ってきた国民党軍によって北京官話を押し付けられたのです。
日本が植民地となり、中国語が公用語として強制され、日本語を話すことも書くことも禁じられたら?10年、20年の単位で、日本語の文献を読めない〝日本人モドキ〞が増えていくことになります。
つまり過去から今、そして未来につながる日本、日本人であるためにも国防力が不可欠なのです。
日本人としての〝アイデンティティ〞を、強く持ち続けることも国防なのです。同じ島国のイギリスは、王室を有し、核保有国で、英語を世界へ輸出し公用語にしました。ですからGDP(国内総生産)だけを見れば日本よりも低いですが、大国としての風格を今も保っており、国民の意識の高さや誇りにつながっています。
日本は戦後の自虐史観教育のせいなのか、祝日に国旗を掲揚したり、愛国的な発言でもすれば「右翼」のレッテル貼りがされてしまうからか、日本をなかなか誇りだと感じることができなくなっています。どんな小国でも自分の国、民族は素晴らしいと学んでいるのです。日本の先人は何か恥じたようなことをしたのでしょうか?我々は虚偽の歴史に惑わされることなく、真実の歴史を学ぶべきです。
(「Are You Happy?」2018年2月号)
1963年千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学卒業。1986年より北京外国語学院、1987年より遼寧師範大学(大連)に留学。世界40カ国以上を取材しての執筆・講演活動のほか、テレビなどでコメンテーターとしても活躍。著書に『中国人の世界乗っ取り計画』(産経新聞出版)、『世界はこれほど日本が好き No.1親日国・ポーランドが教えてくれた「美しい日本人」』(祥伝社)、『トランプが中国の夢を終わらせる』(ワニブックス)ほか多数。