不思議なサイクル
長年、不思議に思っていたことがあります。子供たちは、学年ごとにわりとはっきりした個性があり、「きみたち、みんな過去世はお坊さんか尼さんだったのかな?」と思うようなしっかりした子たちの一つ下の学年は、なぜか決まって「地球へようこそ! きみたちはどの星からきたのかな?」と聞きたくなるカラフルな個性の子供たちが集団でやってきます。それがだいたい交互にくるので、これは一体どんな神様の仕組みなのかしら、と不思議に思っていました。
紙粘土工作にも違いが……
学年ごとのカラーはさまざまなところに現れるのですが、紙粘土工作をすると違いが顕著に出ます。
しっかりさんの学年は、まず先生の説明をよーく聞き、お手本をよーく見て、そのあとよーく考えてから自分の作品を作り始めます。何を作るかは自分で自由に決めてよいのですが、先生がお手本として白と青と緑の紙粘土で地球を作ると、同じように地球を作る子が多く、お手本にケーキを見せると、ケーキを作る子が続出します。しかもよく観察してていねいに作るので、お手本に近いすばらしい作品に仕上がります。これは、この子たちの優れた力だなと思います。
一方、「地球へようこそ」組の子供たちは、色の紙粘土を見ただけでそわそわし始めます。お手本の地球を見せると「おおおーっ」と歓声が上がり、三色串団子を見せると「おいしそーっ」とまた歓声が上がります。「説明はもういいから早く作りたい!」という心の声がガンガン聞こえてきます。先生のお話をちゃんと聞いたかどうかはあやしいのですが、紙粘土を配るや否や、どの子もすごい勢いで手を動かし始め、あれほど歓声の上がったお手本と同じものを作る子はほとんどおらず、みんな実に自由に造形していきます。最後まで、何を作っているのかさっぱりわからない子もいます。
「けんちゃんは、何を作っているの?」「きょうりゅう」「恐竜? すごいね! これはもしかしてティラノサウルス?」「そう」ここで先生はドキリとします。ティラノサウルスは、大きな後ろ足と巨大なしっぽでバランスをとって立たせなければ、それっぽい形になりません。幼児の技術では至難の技です。でも、できるかどうかなんて関係なく、自分の作りたいものを必死で作ろうとするけんちゃんたちを先生たちは忍耐強く励まして最後まで頑張らせてあげます。もちろん、できなくて泣く子もいるけれど、しょっぱい経験も大事な経験のひとつです。
お互いをリスペクトできる子供たちに
教育の理想とは、すべての子供が幸福に大きく成長することです。そのためには、親や先生に、多様性を受け入れる広い心と、決してあきらめない忍耐強さが必要ですね。
自分の持ち味をリスペクトしてもらえた子供は、他者の個性もリスペクトできるようになります。やがて大人になり、持ち味の違う者同士が互いに尊重し、学び合い、力を合わせて頑張るなかで、社会や地球は豊かに大きく繁栄していくのでしょう。そんな世界の未来を創る子供たちを大切に育ててゆきたいものです。
(「Are You Happy?」2017年11月号)
奥田敬子
早稲田大学第一文学部哲学科卒業。現在、幼児教室エンゼルプランVで1~6歳の幼児を指導。毎クラス15分間の親向け「天使をはぐくむ子育て教室」が好評。一男一女の母。