「私の子育て、これでいい?」――子育て中のママたちは、毎日が試行錯誤の連続です。そんなママたちに、大切な子育てのヒントをお届けします。
S君が変わった!
とある小学校に、体が大きくて乱暴なS君という男の子がいました。気に入らないことがあると暴れ出し、相手をやっつけてしまいます。
ある日、同級生の女の子のお母さんがS君の家を訪ねて、「S君がうちの娘にけがをさせたから注意してほしい」と言うと、S君のおじいちゃんとおばあちゃんとお母さんが出てきて「うちの子は悪くない!」と言って、そのお母さんを追い返してしまいました。
S君は、学年が上がるごとに笑顔が少なくなり、イライラ・ムカムカしていることが多くなり、やがてクラスの〝鼻つまみ者”になっていきました。
ところが、5年生になってしばらくたつと、S君も、クラスの空気も変わってきました。変えたのは、担任の先生です。
「Sもこっちに来て一緒にやろう!」
「こらS! そんな言い方はするな。Sは自分がそう言われたら、嫌だろ? みんなだって、Sと同じように嫌なんだ」
「この机はすごく重いから、力持ちのSとMに動かしてもらおう!」
「みんな、SとMに『ありがとう』って言おうな」
「Sは工作がうまいなあ」
「よく我慢したな。Sは立派だな。よしよし」
先生の口がS君の名前を呼び、先生の腕がS君の肩を抱き寄せ、先生の手のひらがS君の頭をなでるたびに、S君のイライラが消えていきました。そして、はにかむような笑顔が少しずつ増えていきました。みんなは、いつの間にか以前のS君のことを、すっかり忘れてしまいました。
本物の自信がのびのびした子を育てる
おとぎ話のようですが、私は実際にこのS君を知っています。彼は5年生になるまで、わがままで自分勝手な反面、いつも不安そうで、どこかびくびくしていました。自己中心的な彼に対するまわりの非難のまなざしが、矢のように彼の心に刺さっていたのでしょう。でも、子供の彼には、自分を変える方法も、まわりを変える方法もわかりませんでした。
子供は、親とは異なる個性を認めてもらえなかったり、未熟さを許してもらえなかったりして、ガミガミ叱られてばかりいると、自信のない萎縮した子に育ちやすいものです。反対に、わがまま放任で、家では王様のように扱われていると、学校では友達も環境も思い通りにならない現実にぶつかり、自信を失くして萎縮していきます。どちらの子育ても、「のびのび」とは反対の縮こまった子になりやすいのです。
S君の担任は、ごく当たり前に彼に接しました。他の子と分け隔てなく彼の名を呼び、よい点や頑張りを認め、悪いことをしたら叱って正しさを教えました。その当たり前のことが、彼を変えたのです。
S君には、先生や友達から寄せられる信頼がうれしかった。まわりはみんな自分を責める敵だと思っていたのに、違った。安心したら、笑顔が出るようになり、自信が湧き、自分も友達を理解しようと思えるようになった。そして、のびのびと自分らしく生きられるようになったのです。
このお話を参考に、ぜひわが子を、本物の自信に溢れたのびのびとした子に育てる工夫をしてみてください。
(「Are You Happy?」2017年5月号)
奥田敬子
早稲田大学第一文学部哲学科卒業。現在、幼児教室エンゼルプランVで1~6歳の幼児を指導。毎クラス15分間の親向け「天使をはぐくむ子育て教室」が好評。一男一女の母。