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幕開けには笑顔を

マスクを外す準備を

「マスクは劇場の緞どん帳ちょうと同じ役目を果たしているんです」
オペラ歌手のルチアーノ・パヴァロッティが初来日したときの言葉です。マスクを外したときから始まる〝何か〞を、ファンもメディアも期待しているのだそうです。人はマスクの下にある顔を無意識に想像しています。しかも良いほうに。我々も薄々そのことに気づいているから、長いマスク生活を経た今、人前でマスクを取ることにためらいを感じてしまうのでしょう。さて、皆さんはマスクを外す心づもりはできていますか?

外す瞬間が大事

パヴァロッティには(マスクは緞帳と同じだ)と思うきっかけがありました。1959年の日本公演を大成功させ、世界中から引っ張りだこになった先輩歌手マリオ・デル・モナコのインタビューシーンを間近で目撃したことだそうです。ファンに囲まれたデル・モナコに取り巻きの記者から声がかかります。
「顔を見せてください」
マスクの下から現れた飛び切りの甘い笑顔に歓声が上がりました。まだ学生だったパヴァロッティは、(マスクを取った瞬間から幕は上がっているんだ!)と感じたのだそうです。彼の笑顔は周囲にいたファンだけでなく、映像を見た世界の人々を華やかな世界へと誘いました。そのときの思いを胸に、駆け出しの歌手として来日していたパヴァロッティは、私に言いました。
「この来日は私にとってチャンスです。私もファンの前でマスクを取り、笑顔でファンと一体になりたい。そして世界でも認められたい」
マスクを外す瞬間のために、その下で着々と準備をしていたのでした。

表情筋を和らげて

さて、私たちにも新たな幕開けのときがやってきました。久しぶりに顔を見せる人や、マスクなしの顔を見せるのは初めての相手という人もいるでしょう。マスクが外せることがうれしい反面、不安や面倒臭さを感じてはいませんか。今後の相手との距離を決める、久しぶりにマスクを外すときの顔は、やはり笑顔を見せたいものです。
マスクを外すと頬や口が現れ、表情は強く伝わります。うれしさや楽しさだけでなく、つらさや嫌悪感など、マイナスな気持ちも倍になって伝わります。目と眉だけを使う表情作りに慣れてしまい、頬や口もとの表情筋が弱まったという人もいるでしょう。マスクを外すことに不安を覚えたら、鏡の前に立ち、マスクを外して微笑んでみてください。頬や口角を上げるのがつらい方は、表情筋が固くなっているサインです。マッサージで筋肉を緩めましょう。清潔にした親指のはらを口の内側から、残りの四本指を外側から当て、頬を挟みマッサージします。初めは痛いかもしれませんが、ほぐれてくるとそれも治まります。効果が出ているかを知るには、マスクを外し、相手にニコッと微笑んでみてください。うまく伝わっていれば、感じ良い微笑を返してくれるでしょう。

顔立ちに合った笑顔がある

女性の場合、マスクを取ったときの相手の反応は、(アラ、かわいい)か(まぁ美人!)のおおよそ2つに分かれ、前者は丸顔系、後者は面長顔系と、顔の形で決まります。子供の頃から「かわいい赤ちゃんね」と言われる子は丸顔、「大きくなったら美人になるわよ」と言われる子は、たいてい面長です。
女優を例に挙げると、かわいい丸顔系は桃井かおりさん、美人の面長系は岩下志摩さんで、顔立ちを生かした表情の作りが抜群にうまい2人です。桃井さんは普段真剣な顔が多いのですが、取材時などは、ゆったりおだやかなかわいさを見せます。岩下さんは、少しのことでは笑わない印象ですが、本来は笑い上戸です。凛とした顔とのギャップが笑顔を引き立てます。笑顔にもいろいろあるので、顔立ちに合った笑顔を研究してみてください。

今月のレッスン

マスクは、笑顔を準備してから外しましょう。

 (「Are You Happy?」2022年9月号)


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岡野宏 

1940年、東京都生まれ。テレビ白黒時代よりNHKアート美粧部に在籍。40年以上にわたり、国内外の俳優だけでなく歴代総理、経営者、文化人まで、延べ10万人のメークやイメージづくりを行う。“「顔」はその人を表す名刺であり、また顔とは頭からつま先までである”という考えのもとに行うイメージづくりには定評がある。NHK大河ドラマ、紅白歌合戦等のチーフディレクターを務め、2000年にNHK退所後は、キャスターや政治家、企業向けにイメージアップの研修や講演活動などを国内外で行っている。著書に『一流の顔』(幻冬舎)、『渡る世間は顔しだい』(幻冬舎)、『トップ1%のプロフェッショナルが実践する「見た目」の流儀』(ダイヤモンド社)、『心をつかむ顔力』(PHP研究所)等。

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