レスキューナースが教える 防災のキホン

コロナだけでなく、突然私たちの日常を一変させてしまう災害も、不安の種ではないでしょうか。災害に対する不安を解消するには、備えることがいちばん。
レスキューナースの辻直美さんに、防災の心構えや必要な備品を教えていただきました。

「自分で助かる」心構え

防災を始める第一歩は、「助けてもらう」ではなく、「自分で助かるんだ」と能動的な心構えを持つことです。「災害が来たら、自衛隊が助けてくれる」と思っていても、残念ながら自衛隊やレスキュー隊は、被災者全員には対応できません。
では、具体的に何から始めるべきでしょうか。防災と聞くと、多くの人は、災害対策グッズの用意や、保存食を買い込むことをイメージしますが、家に「ないもの」ばかりを探していると、つらくなって長続きしません。まずは家に「あるもの」をチェックしましょう。「ティッシュペーパーは残り1個で買っていたけど、必ず1パックは置いておくようにしよう」と買い物の習慣を変えていくことも、防災のひとつです。

防災は平時の習慣から

平時にできないことは、非常時にもできないため、防災には日頃の心がけが大切です。特に重要なのが「3秒で決断する」ということ。レスキューの現場では、「3秒悩んだら患者が一人死ぬ」と考え、1秒で情報収集し、2秒で決断、3秒目には行動、という動きを徹底していました。日常の中で言えば、「自動販売機で買う飲み物を3秒で決める」「ランチメニューを3秒で決める」など、少し楽しみながら練習していくといいでしょう。
もう一つ大切なのが、「決断を後悔しないこと」です。不安になりやすい人は、家から逃げた後に「鍵を掛けたかな」「あれも持ってきたほうがよかったかな」と気になって、家に戻って災害に巻き込まれることがあります。そうならないためにも、瞬時に先のことをイメージして決断し、決めたことには責任を持たなければなりません。例えば、「AランチにしたけどBランチにすればよかった」という後悔はしないということです。

防災は実践が大切!

今はさまざまなプロ仕様の防災道具が入手でき、インターネットには防災知識が溢れています。道具を買っただけで開けていなかったり、知識だけで実際にやってみたことがないのに、「防災できている」と思う人が増えていることに、私は危機感を覚えています。知識は行動とつながったときに技能になります。「買い物に行かず、備蓄で3日間過ごしてみる」など、防災知識を実践してみることも大切です。

防災は「練習」災害は「本番」

避難経路に関しても、地図を確認するだけでは充分ではありません。実際に歩いてみると、「坂が急だからおじいちゃんを連れて歩けないな」「階段のところは子供を抱っこしていかないと」といったことが分かります。トラブルに備えて、3つのルートを用意しておくと、冷静に対処できます。
最近はコロナの影響で1カ所の避難所に入れる人数が制限されています。避難所を複数確認しておくことも大切です。高齢者や子供を連れていると、暗くなってから避難するのは難しくなります。台風や大雨の場合は予測がつくので、早めに逃げる決断をしましょう。「早く避難しすぎて周りに笑われたら」などと悩まず、予測が外れても、「大げさだったね」と生きて笑えるなら、そのほうが良いと思います。
そして、高齢者の方にお願いしたいのは、「絶対にあきらめないで!」ということです。災害時、「私はもう年だから……」と避難をあきらめようとする高齢者を説得しようとして、家族が巻き込まれてしまうケースがあります。本人はあきらめても、周りの人は決してあきらめられないので、他の人のためにもきちんと避難していただきたいのです。
防災を「練習」と考えると、災害は「本番」です。いざというとき、「いつもやってきたから大丈夫」と安心できるよう、生活の中で防災への意識を持ってほしいと思います。

辻家の防災対策

食器は取っ手付きのプラスチックケースに収納しています。底面と内側の底の両方に滑り止めを貼ることで、お皿も動かず、ケースも落ちません。
軽い物でも、散乱してしまうと精神的にショックを受けるので、吊り戸棚にはロックを付けています。このロックは100円ショップでも買うことができます。
「防災仕様の家は、無機質で何もない」というイメージを持たれることもありますが、わが家では普通の生活と防災を両立しています。例えばキッチンラックは、重いもの、割れやすいものは下のほうに置き、軽いものを上に置くだけで、重心が安定して倒れにくくなります。
リビングの本棚は、きっちり本を詰めることで落下しにくくしています。本が詰まっていない段には滑り止めシートを敷くと、本の飛び出しを防いでくれます。本棚だけでなく、家具には転倒防止板を付けましょう。

「もしも」に備えて!備蓄チェック

4人家族の備蓄量の例を見てみましょう。あくまで目安なので、家庭に合わせて調整が必要です。

衛生

チェックリスト

□ペットシーツ(レギュラーサイズ)…3箱(300枚)
□45リットルゴミ袋…50枚入×3パック
□新聞紙…30部
□トイレットペーパー…12ロール×3
□オムツ…1カ月分(子供、要介護者がいる場合)
□持病の薬…1カ月分
□使い捨てコンタクトレンズ…1カ月分

ペットのいないご家庭でも、ペットシーツは備えておくと便利です。水道が止まったとき、便器に2重でゴミ袋をかけてペットシーツを敷くと、簡易トイレになります。使用後は、細かく切った新聞紙を入れて吸水し、縛って捨てることができます。また、持病の薬やコンタクトレンズは救援物資として届くことはないので、注意が必要。子供や要介護者がいる場合、オムツも1カ月分あると安心です。

電気

チェックリスト

□乾電池(使っている家電に合わせた型・数)
□ソーラーパネル付きランタン…3つ
□ランタン…5つ

照明は、電池式またはソーラーパネル付きランタンがおすすめ。懐中電灯の上に水入りペットボトルを乗せると、簡易ランタンになります。ランタンは、トイレ、キッチン、リビング、玄関、廊下に加え、各部屋・各自用の数をイメージしています。

情報

チェックリスト

□モバイルバッテリー…5個
□手回し充電式ラジオ…1個
□電池式ラジオ…1個

停電時にスマートフォンを充電する際には、モバイルバッテリーが必要です。5個のうち1個は、乾電池タイプを用意しましょう。停電でテレビやスマホが使用できなくなることもあるため、ラジオで災害状況の情報収集を行います。ソーラータイプのラジオだと、なお安心です。

暑さ 寒さ

チェックリスト

□保冷剤(夏)…10個
□塩飴/塩分タブレット(夏)…4袋
□使い捨てカイロ(冬)…15個
□チェックリスト
□レスキューアルミシート…4枚

台風が過ぎた後は、台風一過の晴天で気温が急上昇することが多く、体調を崩しがちです。保冷剤など、体温を下げるものを準備しましょう。断水が起きると、トイレに行かないために水を飲むことを我慢する人がいますが、水分と塩分はしっかり補給することが大切です。気温が低い場合は電気を使わない防寒対策が必要なため、カイロやレスキューアルミシートを用意することをおすすめします。

(「Are You Happy?」2020年10月号記事をそのまま掲載)

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辻 直美 

看護師・レスキューナース

看護師として大阪で働いていたときに阪神・淡路大震災を経験し、災害医療に目覚める。看護師歴33年、災害レスキューナースとして29年活躍。一般向けにオンラインセミナーも開催中。(2024年4月現在)

タイトル

『レスキューナースが教えるプチプラ防災』

『レスキューナースが教えるプチプラ防災』

 
阪神・淡路大震災で実家が全壊したことを機に災害救助に目覚めたレスキューナース・辻直美が実践する「お金をかけずに命を守る防災テクニック」。

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