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リボンを緩めるー岡野宏のビューティーレッスン

40年にわたりNHK美粧部に在籍し、国内外の女優や政治家などのメークアップに携わってきた岡野宏さんが考える「魅力ある人」とは? さあ、一緒に美しさへの一歩を踏み出しましょう。

閉じる、緩める

閉じた唇を緩めるのは、相手に心を許しているときの仕草です。

しかし、開き過ぎは下品に、閉じたままでは野暮ったく、ちょうどよい頃合いにするのはなかなか難しいものです。

ファッションでは、ファスナー、ボタン、リボンなどが閉じる道具ですが、固く閉じると相手や場に対して緊張や警戒を感じているサインとなり、緩めるとリラックスした印象になります。

また、どんな道具を選ぶかで、その人の発する雰囲気が変わります。

ボタン派?ファスナー派?

あるドラマのお見合いシーンで、女性が着ていたワンピースのファスナーを見た演出家が言いました。

「性格の柔らかさを出したいからボタンがいいよね。包みボタンなら、上品でなおイメージに合うんだけど」

一方、本田宗一郎さんの自伝ドラマの中で、バイクに乗る女優の姿が垢ぬけず、そばで見ていた別の女優が指摘しました。

「バイク乗りにボタン留めの上着じゃやぼったいわよ。幅広ファスナーを走らせたジャケットに変えれば格好よくなるわ」

ひとつずつ掛けるボタンは落ち着きや洒落た印象を、一息に開閉できるファスナーはスポーティーな印象を強調します。パーティー会場などで、ボタン派とファスナー派の集まりが自然とできるのは、それらの発するイメージの共通性が安心感をもたらすからでしょう。

大人もリボンを

愛らしいイメージのあるリボンですが、北欧などでは家族ごとに代々受け継がれているもの
があり、その国の文化になっています。日本にも明治時代にシルクのリボンが入り、鹿鳴館に
集う女性たちの髪を飾りましたが、歴史が浅く使い方が分からないまま来てしまったように思
います。

デザイナーの水野正夫さんいわく、「大人のリボン使いのコツは、つける本人が主役で、リボンを脇役にさせること」だそうです。

リボンが浮き過ぎないようにするには、服や小物と共布のものや、マットな質感やくすんだ色で落ち着きのあるものを選ぶとよいでしょう。

余裕を演出する

シャネルスーツといえば、胸元のリボンをきっちり結ぶイメージですが、ある年のパリコレで、ブラウスのリボンが結ばれずにだらりと下がり、鎖骨が見え隠れしていました。このルーズさが似合うのは、余裕のある大人だからこそ。会場からは、ため息が漏れていました。

また、いしだあゆみさんや浅丘ルリ子さん、ソニア・リキエルさんが、髪に固結びにしたリボンを長く垂らしていましたが、ふっくらとした蝶結びのかわいさとは異なり、揺れるラインから落ち着いた大人のかわいさを感じたものです。男性もリボンをリボンは男性にも似合う小道
具です。蝶ネクタイは棒ネクタイより華やかでかわいさや愛嬌があり、帽子の周りに結べば硬
さがなくなり、チャップリンのような親しみやすさが増します。

森繁久弥さんが、杖に洒落たリボンを結ばれていましたが、杖をつく惨めさが感じられず、ホッとしたものを感じました。

閉じたり、結んだり、緩めたり、場や相手、自分の心に合わせて試してみてください。

 

© K’s color atelier

「裏表のあるリボンも結び方で左右表にできます」

今月のレッスン

その唇の緩み加減、笑顔として伝わっていますか?

 
(「Are You Happy?」2018年10月号)


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