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欠点は魅力の素ー岡野宏のビューティーレッスン

見た目が気になる

4月は環境の変化や新たな出会いがある季節です。この時期、容姿についての相談が増えますが、私は生まれ持った姿に欠点はないという考えです。
「あるわよ」とおっしゃる方は、欠点を個性に変えることを熱心に考えない、または個性に変える技を知らないだけだと思います。

欠点は安易に隠さない

田中角栄元総理が通産大臣のころ、彼がテレビ出演する際のメークを担当していました。毛細血管が浮き出て赤い頬にタラタラ汗をかき、これで鼻をたらせば戦後の田舎の子という顔でしたが、私はそれをメークで隠そうとは思いませんでした。当時彼の秘書だった鳩山邦夫さんが私のもとへ飛んで来られました。

「あの顔って醜いですよね、汚いですよね、どうにかなりませんか」
次までに考えると答えたのですが、あいにくドラマのロケに行かねばならず、私の代わりにメークをした方が角栄さんの顔から赤みを消し、こまめに汗を押さえ、その結果、こざっぱりとしたきれいな顔が画面に映りました。
「次からはこのVTRのような顔にしてもらいたい」
演出家にそう言われては、「はい」と答えるしかありません。ところが放送終了後、意外なメールや電話がたくさん入ってきたのです。

「あれは角栄さんではない」
「一生懸命さが見えない」
「故郷の親父さんみたいで親しみを感じたのに」

みなさん、赤ら顔でなかったことが心に引っかかるようでした。「醜い、汚い」と言われ、欠点の集まりのような印象も、彼の行動や立場と相まって好感を持たれていたのです。

欠点は個性の素

顔や全身の中でしっくりこない、普通から大きく外れたものを欠点と呼びますが、それは個性の素でもあります。へルベルト・フォン・カラヤンは、国際指揮者コンテストの審査のとき、「普通の人はとらない」とおっしゃっていました。

「欠点を良いほうに転がせば、ほかにはない、素晴らしい個性の素になります。個性は、何もないところから生み出すのは難しいのです」

女優の魅力も、他の人なら欠点と思うようなところを活かすことで生まれることが多いものです。加賀まりこさんは左右の眉の高さが違いますが、その表情がかわいく、田中裕子さんはタレ目を直さないのが清々しいし、まん丸になった顔の松坂慶子さんは、頑張って少しでも細く見せようとする髪型が欠点になったり個性になったりしています。芯になる立ち居振る舞いの鈍さが大竹しのぶさんの魅力ですが、「それがなければ彼女ではない」と言われるチャームポイントになっています。

自分だけの魅力を

自分の欠点(人と違う部分)がチャームポイントに成りえるかどうかは、身近な人が知っています。はっきりとものを言ってくれる人に尋ねてみましょう。「それがなくなったらあなたではない」と言われたら、全身を鏡やモニターに映し、バランスを見ます。身体の動きや声、仕草が加わるだけでチャーミングな場合もあります。女優の名取裕子さんは首が長いのを気にされていましたが、その長い首を活かすシャツの襟の開け方を試したところ、二重あごやポッチャリ感が減り、首の美しさがトレードマークになりました。

世の中にはさまざまな人がいますが、その人にしかない個性が生きるメーキャップやおしゃれができたら、他人にはない美しさ(魅力)が出て、気持ちも明るく楽しい毎日が送れるのではないでしょうか。そもそもメーキャップは、そういうことのためにあるものなのです。

© K’s color atelier

「ひとと ちがうところ あれこれ みつけたら よろこびましょう」

今月のレッスン

欠点は周囲とのバランスで魅力に変えることができます。一歩引いた目で全体を眺めてみましょう。

 
(「Are You Happy?」2019年4月号)


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