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負けたとき、間違えたときが成長のチャンス!〔子育て110番〕

超負けず嫌いで、超穏やか!?

最年少プロ棋士・藤井聡太六段(掲載当時)や、生きる伝説と言われる羽生善治永世七冠の活躍で、昨年から空前の将棋ブームが続いていますが、実は私も将棋ファンのひとりです。

将棋は、囲碁やチェスと同じく古くからあるボードゲームの一種ですが、プロ棋士の対局を見ていると、ゲームという言葉からはほど遠い、真剣勝負の世界であることがわかります。「将棋は、盤上での命の取り合い。生きるか死ぬかの戦いです」と表現する棋士もいます。たしかに将棋の駒の「歩兵」や「王将」などの呼び名でもわかるように、盤上の40個の駒一つひとつが戦場の兵士であり、いかに全軍を躍動させて相手の王将を詰ますか、という勝負なわけです。しかも一回の対局は、長いものになると12時間を超えます。超がつくほどの負けず嫌いでなければ、プロ棋士にはなれないそうです。

ところが、プロ棋士は皆、発する言葉も物腰もたいへん穏やかで謙虚です。どの棋士も自制心の塊のように見えます。藤井六段の言動も15歳とは思えない聡明さと落ち着きを湛えていますが、幼少時は、勝負に負けるとひっくり返ってのた打ち回るほど悔しがったそうです。超負けず嫌いで超穏やか、この一見相反する性質がどうして同居するのか、子供の教育に携わる私は、非常に興味を引かれました。

自分の弱さを素直に認めること

藤井六段の師匠である杉本昌隆(まさたか)七段は、「将棋で負けたとき、自分の負けを素直に受け入れる必要がある」と語っていましたが、将棋に限らずどんな世界でも、これが強くなるための第一歩だと思います。勝負に負けるのは自分がまだ弱いからであり、作戦で失敗するのも自分の責任です。腹が立っても悔しくても、誰のせいにもできないし、言い訳もできない。自分で負けを受け入れるしかありません。

それはスポーツや勉強でも同じです。負けたときや間違えたとき、言い訳したり、周りや環境のせいにする人は決して強くなれません。強くなるには、自分の負けを受け入れ、負けから学ぶことです。敗北や失敗には必ず理由があります。なぜ負けたのか、自分のどこが弱いのか。それを冷静に分析し、勉強して、負けない努力、強くなる努力を積み重ねることです。

難関大学の合格者も、これと似たことを言います。「問題集や模擬試験は、やりっ放しにせず、間違った箇所は必ずやり直して次からは間違えないようにすることで、自分の勉強の弱点を克服していった」と。

強くなりたければ、自分より強い相手と戦うことです。強い相手と戦うからこそ負ける。負けた原因を考え、「次は勝ってみせるぞ」と努力し、次第に強くなっていく。勉強も同じです。難しい問題や難しい学校に挑戦するからこそ壁にぶつかりますが、壁を乗り越える努力をすることで、頭脳も精神も強くたくましく鍛えられます。それだけでなく、高い志(こころざし)と克己心をもって努力する過程で、謙虚さや穏やかな人格までもが培われていきます。

子供たちが試合に負けたときや勉強で間違えたとき、「今が強くなるチャンスよ。今が成長するチャンスよ!」と励まし、反省から成長する方法を教えてあげましょう。

(「Are You Happy?」2018年6月号)

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奥田敬子 

早稲田大学第一文学部哲学科卒業。現在、幼児教室エンゼルプランVで1~6歳の幼児を指導。毎クラス15分間の親向け「天使をはぐくむ子育て教室」が好評。一男一女の母。

 

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