神の声を信じて
ジャンヌ・ダルクは1412年、フランスのドンレミ村に生まれます。当時、フランスはイギリスとの百年戦争の最中。幼いころから信仰深かったジャンヌは、村と国の平和を願い、日々神に祈っていました。
13歳の夏、ジャンヌは突然“声”を聞きました。声は大天使ミカエルと名乗り、こう告げました。「これまで以上に熱心に教会に通いなさい。神の教えを守り、清らかに暮らしなさい。そしてフランスを救いなさい」。なぜ自分が神の声を聞くのかとジャンヌは悩みます。
16歳のとき、重要な橋のあるオルレアンの町がイギリス軍に包囲され、フランスは滅亡の危機に。そのとき、ジャンヌはまた声を聞きます。「オルレアンを開放し、王太子シャルルをフランスで戴冠させなさい。彼をフランスの王にすれば戦争は終わります」。そして声は、ヴォークルールにいる守備隊長に会うよう告げました。神の声に従うことを誓ったジャンヌに、さらに声が響きます。「行け、そしてフランスを救え!」
弱腰のフランス軍を鼓舞する
ジャンヌは急いでヴォークルールに向かい、守備隊長に会います。そして王太子シャルルとの面会の際、重臣らは神の声が聞こえるのは本当か試そうと、シャルルに騎士の格好をさせ、側近に紛れさせました。しかしジャンヌは一瞬で王太子が誰かを見抜き、変装したシャルルの前にひざまずきます。そして神からシャルルに預かった言葉をそっと囁きました。その言葉はシャルルを奮起させ、「フランスの勝利のために戴冠式を行おう」と、ジャンヌとともに兵を率いてランスをめざします。
負け続け、弱腰になっていたフランス軍でしたが、戦闘に参加し、果敢に敵に立ち向かうジャンヌの姿は兵士たちを感化。砦を次々に攻め落とし、ついにオルレアンのイギリス軍最後の砦に攻め入りました。この闘いでジャンヌは左肩に矢を受けてしまいますが、自ら矢を抜き、すぐに闘いに戻る姿にフランス軍は大いに鼓舞され、砦を一気に突破します。
祖国フランスを守ったジャンヌ
1449年、ついにフランスに到着。戴冠式が行われ、シャルルは正式にフランス国王シャルル7世となりました。
ジャンヌは何度も神や天使、聖霊たちの声を聞き、常にその指示に従おうとしていました。「首都・パリを奪還するように」という声を聞いたときも、行動に移そうとしますが、重臣たちの失策でイギリス軍に攻められてしまいます。やがて捕虜として捕えられ、異端裁判にかけられることに。イギリスと組んだ裁判長が取り仕切り、弁護人もいない裁判で、ジャンヌは3カ月もの間、毅然と神の声と自らの信仰について答え続けました。
やがて、ジャンヌに恨みを持つフランス人司教が、なかなか異端の烙印が押せないことに焦って火炙り台を準備。カトリック教徒のジャンヌは火炙りを恐れ、仕方なく悔い改める誓約書にサインをしました。ところがそれは偽の誓約書で、「戻り異端」として火炙りの刑に処されてしまいます。
処刑当日、一説には、ジャンヌは“声”を伝え続けてきた神や天使、聖霊たちに見守られ、苦しまず、悲しむことなく天に召されたと伝えられています。そして1453年、フランスの全面勝利で百年戦争は終結。国と自由を取り戻したフランスは、世界に名だたる発展を遂げます。
神の声のもと、素直さと勇気でフランス国家を守り、わずか19歳で歴史を変えたジャンヌ。「正しき者は強くあれ」を体現したジャンヌは、ヨーロッパの“自由の女神”ともいえるでしょう。1456年には異端認定が撤回されて無罪となり、1920年、当時のローマ法王によって聖者と認められました。
(2012年7月号「時代を創った女性たち」)
鈴木真実哉
ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ経営成功学部ディーン
1954年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。同大学大学院経済学研究科修士課程と博士課程で応用経済学を専攻。玉川大学、法政大学講師、上武大学助教授、聖学院大学教授等を経て、2015年4月よりハッピー・サイエンス・ユニバーシティ 経営成功学部 ディーン。同学部プロフェッサー。著書に『理工系学生のための経済学入門』(文眞堂)他がある。