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シンプルの効用ー岡野宏のビューティーレッスン

40年にわたりNHK美粧部に在籍し、国内外の女優や政治家などのメークアップに携わってきた岡野宏さんが考える「魅力ある人」とは? さあ、一緒に美しさへの一歩を踏み出しましょう。 

加えすぎていませんか?

「やぼったい人の絵は、余分な線があれやこれや加えられ、大事な線が消えています。いい絵は少ない線で、すっきりと的確に表現できているのです」

と、手塚治虫さんがおっしゃったことがあります。ファッションやメーキャップも同じことが言え、「センスがない」「おしゃれに自信がない」という人ほど、余分なものを加えすぎている傾向が見られるのです。

 

無難とシンプルは違う

デザイナーのイヴ・サンローラン氏は紺のスーツに濃紺のネクタイ、森英恵さんは紺や黒のスーツに髪を一束に結わえ、これ以上引くものがないというほど、余分なものを省かれていました。

華やかなモデルたちの中で埋もれることなく、むしろ浮き上がって見えたのは、おふたりともに最高の仕立てでフイット感が抜群、サンローラン氏は裾のもたつきをなくしたモーニングカットであり、森さんは皺の寄りにくい立体裁断のスーツで質感やデザインにこだわりを持っていたからです。

「余分な物を抜いても、こう見せなければだめよ」という見本のような姿でした。

 

色の整理をする

手始めに、色を整理するところから始めてみましょう。全身に使う色数を3、4色ほどでまとめます。小さい花柄やタータンチェックは1色として扱い、ネイルやアイシャドー、チーク、口紅といったメイク類の色も数に入れましょう。服の色調に合わせた色使いにすると、シンプルにセンス良くまとまります。

白、黒、グレーの無彩色でまとめる組み合わせは、デザインが派手でも感じの悪くなる心配がないので、モデルや女優が好む配色です。東京コレクションで来日した海外のモデルたちが、イッセイミヤケの「プリーツ プリーズ」の店舗にあった無彩色のコーナーの服を、つかんだそばから買い占めるのですが、カラフルなアクセサリー類は手に取ってから考え込み、買うことはありませんでした。

「色物は、それ自体が素敵でも、私のイメージや持ちものに合うかをよく考えないとね」
無彩色や地味な色をベースにしてシンプルにすると、ほんの少しだけ差した色が浮き上がり、強い印象を残します。自分を引き立てる色や季節を表す色を、絵を描くように線や点で置いてみましょう。紺のスーツに、ベルト、靴、バッグを赤でそろえ、ポケットチーフに白を加えてトリコロールカラーというように遊んでみるのも洒落(しゃ)れています。

シンプルが際立たせる

無彩色をベースにしたシンプルなファッションを好まれた女優の淡路恵子さんからは、スカッとした気持ちよさや、今を生きる潔さが伝わってきました。
「いつも同じようなスタイルのものを選ぶのだけど、年々ちょっとデザインが違うのよ。幅や丈なんか少し違うだけで、古くも新しくも感じるの」
彼女はシンプルな中に、今を感じさせる何かを少しだけ加えているのだそうです。

「流行を追う気はないけど、ちょっと取り入れたものは魅力あるわね」
そううなずいた女優の沢村貞子さんは、利休鼠(りきゅうねず)の着物に帯留の琥珀(こはく)と同系色の半襟と草履の鼻緒を合わせていらっしゃいました。彼女の小股が切れ上がった江戸前の粋さは着方や身のこなしに表れるのですが、その抑えた装いのおかげで、一層際立っていました。

シンプルな装いは、その人の持ち味を引き出します。身につけている飾りをひとつ、またひとつ、と引いてみてください。少し物足りないと思うぐらいのほうが、あなたの良さが引き出され、際立つのです。

© K’s color atelier

「引けって言われても 引き切れないのよね」

今月のレッスン
色物やアクセサリーを減らして
物足りなさを感じたら、
表情やしぐさに磨きをかけましょう。

 
(「Are You Happy?」2018年8月号)


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岡野宏 

1940年、東京都生まれ。テレビ白黒時代よりNHKアート美粧部に在籍。40年以上にわたり、国内外の俳優だけでなく歴代総理、経営者、文化人まで、延べ10万人のメークやイメージづくりを行う。“「顔」はその人を表す名刺であり、また顔とは頭からつま先までである”という考えのもとに行うイメージづくりには定評がある。NHK大河ドラマ、紅白歌合戦等のチーフディレクターを務め、2000年にNHK退所後は、キャスターや政治家、企業向けにイメージアップの研修や講演活動などを国内外で行っている。著書に『一流の顔』(幻冬舎)、『渡る世間は顔しだい』(幻冬舎)、『トップ1%のプロフェッショナルが実践する「見た目」の流儀』(ダイヤモンド社)、『心をつかむ顔力』(PHP研究所)等。

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