こころの傷を癒すにはアイキャッチ

災害や戦争、強いショックや深い悲しみ……「こころの傷を癒すには」

恐怖が頭から離れない、不安で胸がいっぱい……。被災された方、そしてテレビなどで間接的に見聞きした方にも忍び寄る症状について、精神科医の小林城治先生にお聞きしました。

消えない心の傷がつらい心身症状に

災害や戦争などで生死の境に立ったり、強いショックや深い悲しみを受けたりしたとき、心に傷(トラウマ)ができ、PTSD(Post-Traumatic Stress Disorderの略、心的外傷後ストレス障害)という精神疾患にかかってしまうことがあります。
PTSDは1860年代、南北戦争の兵士が悩まされた症状として記録が残っていて、日本でも阪神大震災などで病名が広まりました。東日本大震災でも、症状を訴える方が多いと予想されています。

テレビの報道を見て発症することも

発症すると無表情・無感動、フラッシュバックによる恐怖や回避(トラウマ体験を思い出すことを避ける)などがまず起こり、二次的症状としてイライラや不眠、頭痛、下痢、便秘などの心身症状が見られます。
救援活動に携わった方にも発症の可能性があり、惨状をテレビの報道などで見聞きした方も、不眠や不安など、PTSDに近い症状を訴えることがあります。

心の状態が発症を分ける

重症の場合、何十年も苦しむこともあるPTSDですが、同じ体験をしても発症する方としない方がいます。明るく前向きな方や、神仏への信仰など心の拠り所がある方は発症率が低く、たとえ発症しても完治が早いといわれています。
根本的な治療は、心の傷を癒すことです。睡眠薬や抗うつ薬などを用いた薬物療法だけに頼ると再発の可能性が高いため、薬を上手に使いつつ、カウンセリングなどで心を癒していきます。
精神療法では、たとえば津波がトラウマになってしまった方に少しずつ海を見せるなどの「認知行動療法」が多く用いられます。トラウマ体験を受け止め直すことで、不安や恐怖を少しずつ和らげていきます。ただし性急な治療は危険ですので、急がないでください。漢方薬ではストレスを和らげる柴朴湯が多く処方されます。

「安心感」を与えること

ご家族など周りにいる方ができることは、「安心感」を与えることです。食事や住環境を整えるなど、生きる上での不安を取り除くことがまず求められます。
そして、心の傷をいつまでも溜め込まず、言語化することも必要です。トラウマ体験などを語り始めたら、ただ頷いて聞いてあげてください。話したがらない場合は、待つことも治療のひとつです。
そして何より大切なのは、「完治してほしい」という思いです。周りの方の包み込むような愛が心を癒し、完治への道を開くのです。

PTSD発症から完治するまで

原因となる体験(トラウマ体験)
地震や津波、洪水などの自然災害や戦争、暴行、レイプなどのほか、愛する人との死別や離別、地位や健康の損失などのあらゆる体験が心の傷となりうる。

感覚麻痺(解離症状)
心を守るための防衛本能として、トラウマ体験を思い出させる場所やモノを避けたり、当時の記憶を一時的に失ったりする。感覚が麻痺するため無表情、無感動になってしまう。

追悼(フラッシュバック)
トラウマ体験の一部またはすべてが頭から離れず、深い悲しみに陥るほか、トラウマ体験を思い出す状況下で強い恐怖や不安を感じる、悪夢で追体験する、などの症状に悩まされる。
 何度も繰り返す
抑うつと絶望(覚醒状態)
音への過剰反応やイライラ、食欲不振、不眠のほか、腹痛や頭痛、吐き気、下痢や便秘などの心身に影響する自律神経症状を発症。うつ病の症状にも近く、自殺願望なども起こる。

回復と再建
適切な治療や投薬により、少しずつPTSDの症状が少なくなり、発症前の生活や精神状態に戻る。大切なのは「自分は護られているのだ」という内側から湧いてくる安心感や、心の拠り所。

From Dr, Joji

心が落ち着くモノや場所をまず見つけて
たとえば、神社への参拝を続けることで、PTSDなどの不安障害が完治した方もいます。その方にとって、“神聖で、安らげる”神社が心の拠り所だったんですね。
「こんな世の中、信じられるものなんてない!」と言う方もいますが、まずはもっと大きな視点で世界を見てみてください。あなたに向けられている愛や、やさしさはありませんか。「人生、捨てたもんじゃない」と思えたら、まずは心が落ち着き、安心できるモノや場所を探すところから、始めてみましょう。

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記事DATA

小林城治 Joji Kobayashi

精神科・心療内科医

医療法人社団ヘルメス会「J戸越銀座クリニック」理事長。

高い実績を認められた復職支援(リワーク)の専門機関、薬だけに頼らない療法で社会復帰をサポート。現代書林『赤ひげ名医シリーズ』に掲載他、日本テレビ『ニュースゼロ』TV東京『ワールドビジネスサテライト』等、テレビ出演も多数。

書籍『2014最新版 現代の赤ひげ 医療最前線の名医12人』に選ばれている。

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