真実哉教授の 時代を創った女性たち――マリー・アントワネット

革命に翻弄された
美と知性の伝道者
マリー・アントワネット

フランス革命が生んだ悲劇の王妃のイメージが強いマリー・アントワネット。「浪費でフランスを傾かせた」などの悪名もありますが、その人生をひもとくと、周囲からの嫉妬と革命に翻弄された存在であることがわかります。
アントワネットは1755年11月2日、神聖ローマ皇帝のフランツ1世とオーストリアの女大公マリア・テレジアの十一女としてウィーンに生まれます。ドイツ語名はアントーニア。幼いころからダンスやイタリア語などを習い、ハープやチェンバロの腕前はかなりのものでした。

オーストリアは当時、プロシアの脅威から国を守るため、敵対していたフランスと友好を結ぶ外交革命の最中でした。母マリア・テレジアは、アントーニアとフランス国王ルイ15世の孫、ルイ・オーギュストとの結婚を決めます。
1770年、14歳のアントーニアは王太子となっていたルイと結婚。フランス語名のマリー・アントワネットと呼ばれるようになり、「マリー・アントワネットの賛歌」がつくられるほどの祝福を受けます。ところが宮廷に入るとすぐに、ルイ15世の寵姫デュ・バリー夫人とルイ15世の娘アデライードの対立に巻き込まれることに。ふたりが憎しみと嫉妬にかられ、社交界でアントワネットの悪口をいいふらしたのも、後の悪いイメージの一因とされます。
実際のアントワネットはぜいたく三昧などの悪評とは違い、自分のための城を望まず、本来の持ち主が完成前に逝去し、無人になった離宮に入りました。有名な「パンがなければケーキをお食べ」という言葉も疑わしく、アントワネットは宮廷内で貧困者のための寄付金を集め、寄付のために自分の子どもにおもちゃを我慢させるなど、貧困者への理解と思いに溢れていました。実際に王族や貴族の使用金額は国家財政のわずか6%。アントワネットはそのなかのさらに一部しか使っていません。

1774年、夫のルイが即位し、フランス王妃になったアントワネットはさっそくベルサイユ宮殿の大改革を行います。まずは宮殿の毎朝の接見を簡素化。さらに王族たちの食事風景の公開、王妃に物を直接渡さないなどの古いしきたりや儀式を廃止・緩和します。アントワネットの名言のひとつ「あらゆる浪費の中で、もっとも咎むべきは時間の浪費である」の通り、効率的で無駄のない宮殿を作り上げました。
仕事能力だけでなく美の才能にもすぐれ、目をかけていたデザイナーのローザ・ベルタンがデザインしたドレスや宝石は、当時の大国スペインやポルトガルなどの上流階級の女性に大人気。さらにアントワネットはフランスに入浴の習慣を伝え、香水も当時主流だったムスクなどの動物性香料ではなく、バラやハーブなど植物性の軽やかなものを愛用。これが貴族に流行するなど、ファッションリーダーとしても活躍しました。しぐさも美しく気品に満ち、歩き方は「ベルサイユの摺り足」と呼ばれ、手本にされるほどでした。

息子と娘にも恵まれますが、1785年、フランス革命が勃発。夫のルイ16世が処刑され、アントワネットも裁判で激しく詰問されますが、毅然と罪状を否定します。実際に死罪にする根拠はなく、最後に息子との近親相姦の容疑がかけられ、死刑が決定。しかし息子の証言が8歳にしては詳細すぎ、でっちあげ説が濃厚とされます。

処刑直前、アントワネットは義理の妹エリザベス内親王に手紙を書いています。

「(一部抜粋)私は恥ずべき死刑の判決を受けたのではありません。死刑は犯罪人にとって恥ずべきもの。これはあなたの兄上に会いに行くようにという判決なのです。良心の咎めがないので、私は平静な気持ちです。子どもたちを残していくことだけが心残りです。私が生きてこられたのは、あの子たちと、やさしく親切なあなたがいらっしゃったから。何もかも犠牲にしてくださったあなたを、私はなんという状態のなかに残していかなければならないのでしょう。私は生まれてから今までに犯したすべての罪の赦しを神に願います。今までにもお祈りしてきましたし、私の最後の願いです。私に危害を与えた敵をみな赦します。さようなら! 神に一切をお任せいたします」

本当に罪を犯していたら、このような手紙を残すはずがありません。実際に、現在のフランスの世論調査では国民の9割以上が処刑の必要はなかったという結果がでています。過去の敵対国の王女だったため、フランス国民の不満と嫉妬のはけ口に、革命派のスケープゴートにされたアントワネット。その人生はフランス革命の正当性を根幹から揺るがすものでした。

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鈴木真実哉 Mamiya Suzuki

聖学院大学政治経済学部教授

1954年生まれ。ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ経営成功学部ディーン、聖学院大学政治経済学部教授。専門分野の金融論のほか、貨幣論、シュン ペーター理論などを研究。著書に『格差社会で日本は勝つ』(幸福の科学出版)、共著に『カオスの中の貨幣理論』(雄松堂出版)、『金融入門』(昭和堂)な ど。