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マザー・テレサ―卓越した経営能力を持ち愛と奉仕に生きた聖女

201309

Túrelio by Wikipedia

神の声を聞いたテレサ

愛と奉仕に生きた聖女として世界に知られるマザー・テレサ。1910年、オスマン帝国領のコソボ(現在のマケドニア)にアルバニア
人の母と少数派ルーマニア人の父の娘として生まれ、本名はアルバニア語でアグネス・ゴンジャ・ボヤジュといいます。

オスマン帝国はイスラム教、コソボはギリシャ正教の強い土地でしたが、両親は熱心なカトリック教徒でした。信仰心を受け継いだアグネスは18歳のときにアイルランド系のロレット修道女会に入り、インドのコルカタに派遣されます。そこで初誓願し、「テレサ」という修道名を授かりました。地理が得意だったテレサはロレット修道女会が経営するセントメリー高等学校で教師として働き、やがて校長になります。修道女として順調な人生を歩んでいましたが、36歳のある日、ダージリン行きの電車の中で突然「すべてを捨て、もっとも貧しい人の間で働きなさい」という神の声を聞きました。この啓示を受け、貧しい人たちに尽くすために修道女を辞めると訴えましたが、許可が下りず、修道女のまま奉仕活動を始めることになりました。

 

愛と信念に生きる

テレサはさっそくインド女性が着る質素なサリーに身を包み、スラム街に入りました。異教徒のテレサはさまざまな妨害や迫害を受けますが、めげることなく献身的に愛を与える姿はヒンズー教徒たちの胸を打ち、やがて協力者となっていきました。ホームレスの子どもたちに街頭で無料授業を始めたテレサのもとに、かつての教え子たちが集まり、ボランティアを始めるなど活動は活発化。教会も独立を認め、1950年、テレサは「飢えた人、裸の人、家のない人、体の不自由な人、病気の人、必要とされることのないすべての人、愛されていない人、誰からも世話されない人のために働く」ことを目的に、「神の愛の宣教者会」を設立します。会のリーダーになったテレサには「マザー」という称号が与えられ、マザー・テレサと呼ばれるようになります。ホスピス「死を待つ人々の家」や孤児のための施設「聖なる子どもの家」などを設立し、献身的に世話をするかたわら、1955年には西ベンガル州にハンセン病患者のためのコミューン「平和の村」を設立するなど、テレサの活動は全インドから世界に広まってゆきます。1979年には、その功績が称えられノーベル平和賞を受賞。その後も精力的に活動を続け、日本にも3度来日しています。そして1997年9月5日、「もう息ができないわ」という言葉を遺し、87歳でこの世を去りました。

神の声を聞いて修道院を出、異教徒という理由で迫害に遭いながらも弱者を救おうと力を尽くし、ノーベル平和賞を受賞するほど世界に影響を与えたテレサ。その原動力はやはり、神の声に従うという信念だったのでしょう。テレサは、弱い人や貧しい人の中にキリストを見ていたのです。「彼らに愛の行為を行うことを神は期待している、神の手足になろう」と信仰心を信念に変え、圧倒的な善念で活動を続けるその姿は、愛の化身そのものでした。

 

資金を集め、組織を動かす経営能力

修道会を立ち上げ、さまざまな施設をつくり、たくさんのボランティアを受け入れてきたテレサは、経営能力にも優れていました。そして何十年間も組織のトップとして人を動かし、多くの人を救うという卓越したマネジメント能力も持っていたのです。
人々を救うために必要な資金を世界中から集めることができたのも、信仰と愛にあふれたその活動が大きな説得力を持ち、人々を動かしたのでしょう。テレサは洞察力にも長けており、青空教室から始め、ホスピスや孤児院、ハンセン病患者のための施設など、いつも今何が必要なのか、人々は何を求めているのかを判断し、実行していたのです。「弱い人のために」ではなく「弱い人の立場で」何が必要なのかを考えていました。それは名言「愛の反対は無関心」という言葉からもわかります。「彼らにとっての救いは愛されること」と見抜き、ただお金やモノを与えるのではなく、深い愛をもって接していたのです。

 

神への奉仕に捧げた人生

無限の愛を体現したテレサですが、努力もまた無限でした。テレサの「私たちは不完全な人間です。でも神は不完全な私たちを用い、途方もない量の善をつくり出しているのです」という趣旨の言葉が表すように、不完全だからこそ、神の愛に応えるために努力をし、常に微笑み、祈りを捧げていたのです。
一生を神への奉仕に捧げたマザー・テレサ。その美しい生涯は私たちに多くの学びと、理想の生き方としての感動や幸福感を与え続けてくれます。

(2013年9月号「時代を創った女性たち」)

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鈴木真実哉 

ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ経営成功学部ディーン

1954年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。同大学大学院経済学研究科修士課程と博士課程で応用経済学を専攻。玉川大学、法政大学講師、上武大学助教授、聖学院大学教授等を経て、2015年4月よりハッピー・サイエンス・ユニバーシティ 経営成功学部 ディーン。同学部プロフェッサー。著書に『理工系学生のための経済学入門』(文眞堂)他がある。

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