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ヘレン・アダムス・ケラー:運命の出会いと信仰心で人生を光輝かせた三重苦の聖女

ヘレン・ケラー

三重苦を乗り越えた偉大な女性として今も世界中から尊敬されているヘレン・ケラー。
1880年にアメリカ・アラバマ州の裕福な家に生まれたヘレンは、1歳7カ月のときに高熱によって聴覚や視覚を失い、言葉も話せなくなりました。両親はしつけることができず、ヘレンは後に自伝に「子どものころの私は食べて寝て吠えるだけの獣でした」と記しています。

運命の出会い

7歳のとき、運命の出会いが訪れます。アン・サリヴァンが家庭教師として派遣されたのです。サリヴァン自身も幼少時に病気が元で失明。母親と死に別れて孤児院で育ち、手術を受けて視力が回復した経験の持ち主でした。

「見えない」苦しみを知るサリヴァンは、光を失うことの意味と、そこからどうやって立ち直るかを知っていました。サリヴァンは手づかみで食事をする獣のようなヘレンをしつけ、指文字を教えます。世界中のすべてのものに「名前」があると知ったヘレンは、その好奇心と記憶力でぐんぐんと語彙を増やしていきます。さらに猛特訓の末、たどたどしいながらも言葉が話せるようになりました。ヘレンは後にこうふり返っています。「言葉というものがあると初めて悟った日の晩、ベッドの中で私はうれしくてうれしくて、はじめて早く明日になればいいと思いました」

暗闇と沈黙の世界から、“言葉”という光の世界に帰ってきたヘレンは、ある日、サリヴァンにこう質問します。「サリヴァン先生はどうして私に教えてくれるのですか?」サリヴァンは答えました。「それはヘレンを愛しているからです」「愛ってなんですか?」と聞いたヘレンに、サリヴァンはこう答えます。「“愛”はね、空にかかる雲のようなものかしら。手に触れることはできないけれど、雲は雨を降らせ、大地を潤し、草木を育む。愛とはそのようなものかしら」。このときヘレンは愛という言葉を知り、愛に目覚めたのです。

 

スウェーデンボルグの書籍

やがて盲学校に入学したヘレンは、スウェーデンボルグの書籍『天界と地獄』と出会い、大きな衝撃を受けます。ヘレンは少女のころ、図書館で幽体離脱をしてギリシャの都市アテネを“見た”経験があり、スウェーデンボルグの神秘体験に強く共鳴したのです。

スウェーデンボルグにより、「肉体にどんな障害があっても、その魂は自由で健全である」と知ったヘレンは、苦難や困難を乗り越えていく力を授かりました。父アーサーの死去の知らせが届いたときも、悲しむことなくこう話しています。「お父様は消え去ってなどいない。魂となって、天国から私を見守ってくださっているわ」

スウェーデンボルグの書籍という、人生で二度目の運命の出会いを果たしたヘレンは、健常者に混じってサリヴァンと二人三脚で勉強に励み、難関のラドクリフ女子大学(現・ハーバード大学)に合格。勉強のかたわら、初の著作『私の生涯』を出版し、好評を得ます。そして「まだ愛情が行き渡っていない人たちのために、私ができることがしたい」と、卒業後はマサチューセッツ州の盲人委員会の委員に就任。視覚障害者が自立できるよう職業訓練を施し、新生児の目の病気を防ぐために病院の衛生管理を促したほか、当時は各国や地域でバラバラだった点字の統一を図ります。講演会や著述などでも障害者の救済について訴え続けました。

 

信仰の喜び

ヘレンの活動の原動力は、スウェーデンボルグへの信望と神への信仰でした。1927年出版の『私と宗教』では、「皆さんには私が闇の世界、沈黙の世界に苦悩しているように見えるかもしれませんが、私は真理の光を得たことによって、耳は音楽に満ち、視界は素晴らしい色彩に満ちています」と綴り、「スウェーデンボルグの『霊界記録』の“Love”や“Wisdom”などの点字に触れると、指から光が差し込むのがわかる」などと記しています。

ヘレンは1937年、48年、55年の3度日本を訪れ、各地で講演しています。とくに終戦からわずか3年後の48年の訪日は、敗戦で打ちひしがれた日本人に勇気を与えました。来日をきっかけに、2年後の50年には身体障害者福祉法が制定されるなど、ヘレンは日本の福祉をも大きく前進させています。

サリヴァンによって愛を知り、スウェーデンボルグの書籍で神と信仰に出会ったヘレン。三重苦のなかで真実の世界に生き、「盲目であることは悲しいことです。けれども、目が見えるのに見ようとしないのはもっと悲しいことです」と語ったヘレンは、どこまでも前向きに、三重苦すら人生を輝かせるチャンスに変えました。その生涯は、今もなお人々に勇気と希望を与え続けています。

 
(「Are You Happy?」2013年5月号)

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鈴木真実哉 

ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ経営成功学部ディーン

1954年埼玉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。同大学大学院経済学研究科修士課程と博士課程で応用経済学を専攻。玉川大学、法政大学講師、上武大学助教授、聖学院大学教授等を経て、2015年4月よりハッピー・サイエンス・ユニバーシティ 経営成功学部 ディーン。同学部プロフェッサー。著書に『理工系学生のための経済学入門』(文眞堂)他がある。

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